真山隼人 井上陽一弁士や映画のこと 2021年3月号より

目次

1.井上陽一弁士を偲んで

2.好きな映画

3.10年後の浪曲を考える

1.井上陽一弁士を偲んで

―今回のインタビューでは映画の話を中心に聞いていきたと思います。まずは2019年11月の十三浪曲寄席でゲストで出演いただいた井上陽一先生が亡くなられました。井上先生の公演は反響も大きくて、個人的にも印象に残っているのですが、隼人さんも印象に残っていますか。

隼:井上先生は関西活弁の第一人者みたいな人ですからね。お会いする前は怖い人かなと思ってたんですよ。それが当日、楽屋に行ってみたら、なんと気さくなこと!ずっと楽屋で喋ってましたよ。

最初はお互い何者かわからないから、楽屋で探り合ってたたわけですよ。それが何のきっかけだったのでしょうか。急にポッとなって。懐メロの話で。それこそ高田浩吉。

井上「これ知ってるか?白鷺の~♪」

隼人「土手の柳は~♪」

井上「そうやポリドールや」

隼人「でもね、僕は上原敏さんが」

井上「上原敏!!流転」

隼人「そう!流転ですよ!」

井上「男命を みすじを」

二人で合唱して、楽しいなあってなって。

井上「じゃあ、これ知ってるか」

ってお互い出し合ってるうちに、

隼人「先生、ぼくもう舞台の時間です。」

ってなって。ほんで一席して楽屋帰ってきたら、まだ喋り足らない感じでしたよ。

―めっちゃ楽屋で盛り上がってましたもんね。

隼:先生がやってる映画の層と、ぼくの好きな映画の層も似てましたし。そして、あの楽屋で話してたたのが嘘みたいに、映画になると入り込まれる。活弁の鬼のような方ですね。すばらしい名調でしたよ。七五調で淡々と読み上げる感じ。それにすごかったのが、あのカセットテープの斬新な使い方。一時停止で音を止める感じ、あれすごいなと思いましたね。映画ともちゃんと音が合ってて、あれどうやって作ってるんでしょうね。すごいそれも気になって、袖で観ててすごいなと思いましたね。

―カッコいい語りでしたね。本当に熟練の味もありながら、力強くもあり、活動写真が心底好きなのが伝わりました。

隼:本当に良い人を紹介していただきました。公演からしばらくして、坂本頼光さんに会って「聞いてるよ君の噂。井上先生と拮抗して懐メロの話で盛り上がったんだってね」って言っていただいて。その一カ月後に片岡一郎さんと会う機会が会って「聞いてるよ、井上先生の話!」みんな知ってくださってるのかと(笑)。

―活弁界ではもう有名な話になってたんですかね(笑)

隼:またたく間に東京で噂が広まってたのでお恥ずかしいのですが、あの時のことは何かにつけて思い出しますね。あの日は楽しかったなと。飲みに誘っていただいたんですけど、体調のこともあるし、遠慮させてもらったんですけど、できることなら飲みに行きたかったですね。

また共演して色んな話聞かせてもらえればなと思っていたので、そこは本当に残念です。一回しかお会いしてないのに何べんも会ってるような方が亡くなったような寂しい気持ちがありますね。

―そうですよね。

隼:本当に巨星墜つですよ。お会いできて本当に良かった。「雄呂血(おろち)」も聞きたかった。最後の殺陣のシーンとかいいんでしょうね。

2.真山隼人の好きな映画は

―隼人さんの好きな映画について聞いてお聞きします。映画も時代劇がお好きでしょうか。

隼:子どもの頃は親が有料放送を契約していたので、よう時代劇も観てたんです。中でも、僕が一番好きなのは長谷川一夫先生ですね。

―長谷川一夫先生はいつ頃に活躍された方でしょうか。

隼:戦前戦後の方です。無声映画の時代から300本以上の映画に出はって。この人のスゴイのは宝塚のベルばらを作ったんですから。あの型はこの方の演出ですからね。

―おお!隼人さんは宝塚も好きですもんね。長谷川一夫先生の役者としての魅力はどこにありますか。

隼:やっぱり色っぽいですよね。いい男ってのはベラベラ喋らないんです。銭形平次でも大石内蔵助でも言葉数は多くないわけですよ。撮り方も上手いですからね、表情と流し目とで画になる。

―表情や姿勢で語ってしまうような。

隼:それもあります。だから、憧れの存在ですよね。子どもの頃から好きで、浅草でプロマイドを買って部屋に張ってましたよ。

―いつ頃の話ですか。

隼:小学校3,4年生くらいですかね。中古のビデオ屋で長谷川作品を買い占めて色々観ましたね。

―ハマるととことん追求するのが隼人さんらしいですね。

隼:もう一人好きな俳優さんがいて、それが赤胴鈴之助などに出演している梅若正二さんです。この人もすごい大好きで、本来であれば大映のスターになるはずやったけど、諸事情でなれなかった。この人もカッコいいですね。

―小学校の時から時代劇に興味を持ってるのがスゴイですよね。

隼:でも別に時代劇だけ好きってわけでもないんですよ。

―そうなんですね!

隼:特撮の「宇宙人東京に現わる」ってのも好きですよ。日本最初のカラー映画で、岡本太郎が作ったパイラ人ってのが出てくるんですんよ。この宇宙人は初め「うわ、なんか変なのがいる!」って騒がれるんですけど、結局悪い奴ではなく、地球に訪れる危機を救うためにきた奇特な宇宙人やったという。

―一見変な奴やけど、実はめっちゃいい宇宙人。なんか複雑なメッセージ性を感じますね。

隼:それに、好きな映画で言えば、坂本九のアワモリ君シリーズ。週刊誌の漫画が原作で、そのアワモリ君がいかにも坂本九さんで、すごい良いキャスティングなんですよ。喜劇漫画で言えば、江利チエミのサザエさんも好きですね。アニメのサザエさんで声を当てる時にこの映画を参考にしたのかなと思えるくらい出来上がってるんですよ。

―今のサザエさんのスタンダードを作ったような。

隼:サザエさんの結婚とかもはやミュージカルなわけですよ。市川雷蔵の若親分シリーズも良い。親分の葬式で、軍人の市川雷蔵がピシッとした出で立ちで「私は継ぎません」って言うところ。三島由紀夫のような感じ。それがかっこよくて好きになりました。

―やはり隼人さん自身演者さんということもあってか、俳優さんの演技やカッコ良さに注目されてる印象を受けました。逆にストーリーで好きな映画はありますか。

隼:一番好きなのは「ホームアローン」かな…。

―ギャップがすごい(笑)

隼:あっ!「世紀は笑ふ」です!これは今ハマってる映画でもあるんですけど、杉狂児

と廣澤虎造先生が出ている。奈々福姉さんが浪曲映画で回られた時にシネ・ヌーヴォでも上映されて、その時に初めて銀幕で観て、泣いちゃったんです。杉狂児と廣澤虎造はラーメン屋を営んでるんですけど、杉狂児は浪曲師を目指している廣澤虎造を敢えて突き放して、浪曲師の方向に向かわせるんですよ。で、虎造先生は日本一の浪曲師になるけど、次は虎造先生が杉狂児を突き放すという、男二人が拗れながらも友情を育んでいく、すごく良い話なんですよ。昔から好きやったんですけど、まっとうに浪曲をするようになったら、尚更に泣ける映画ですね。

―虎造先生と重なる部分があったり。

隼:ちょっと重なる部分もありますし、共感できるところが多い映画ですね。まあ、どっちかというと杉狂児が主役なんで、虎造先生は要所要所でしか出てこないんですけど、虎造先生が神田伯山先生の人力車を追いかけて次郎長を貰うとかそういったシーンもありますし。

―浪曲ならでは場面ですね。廣澤虎造役として虎造先生は出てるのですか。

隼:名前は変えてるんですけど、虎造先生の実話とも重なってる部分があって。劇中でやってる浪曲は虎造先生の初期の度々平とかで、よく知られてる虎造先生の節とはちょっと違うんですよ。

―そういう見どころまであるのですね。

隼:そうですね。だから、一番好きな映画は「世紀は笑ふ」。でも、実はぼく洋画も好きで、これに匹敵するくらい好きなのは「レオン」。

―観たことはないのですが、名作という噂は聞いてます。

隼:ジャンレノが演じる殺し屋・レオンと女の子の話で、女の子はジャンレノの隣家に住んでるけど一家が薬中なんですよ。ある日、女の子は買い物に行ってる間に一家が皆殺しにあうんですよ。そこで女の子はジャンレノの家を訪ねる。ジャンレノは本来なら扉を開けないんですけど、事情を知ってるから女の子を入れてやる。そこから女の子と中年のオジサンの恋のような、恋じゃないような奇妙な関係が始まるわけですよ。甘酸っぱい女の子の目線で恋が始まって、最後にジャンレノは女の子を守るために爆死するんですよ。僕が説明すると甘酸っぱくないんですけど、これが良いんですよ。

あと、僕ジョニー・デップが好きで。ジョニー・デップとティム・バートンが作る世界が本当に好きですね。

―ジョニー・デップまで観てるのですね!ティム・バートンと言いますと…。

隼:ティム・バートンは監督で、ジョニー・デップとの作品は例えばシザーハンズとか。スウィーニー・トッド。これ良いですよ!ジョニー・デップの役が冷たいようで温かみのある役で。

母親が元々ジョニー・デップ好きやって、僕は初めは「ジョニー・デップなんかカッコいいだけやろ。何言ってんねん」と思ってたんですけど、じっと観てたら、なんと達者な俳優さんやと気づきまして。

―僕全然気づいてなかったです。勉強しないと。

隼:洋画は恋愛物が好きですね。あと、アニメ映画はジブリが大好きで、僕の話の中でジブリネタは多いんですよ。ラピュタもハウルの動く城も好きですしね。だから、もしかしたらティム・バートンの世界とジブリの話は似てる所があるのかもしれないですね。ジブリは久石さんの音楽がついて、さらに世界感がより良くなりますし。

―本当色んな映画を観られてますね。隼人さんは古いもの好きみたいイメージを持たれがちですけど、実際は違いますよね。

隼:ぼく毎週ドラえもんも観てますし。言うてないだけで、僕アニメ大好きで、いっぱい観てますよ。

―ドラえもんまで!隼人さんの舞台を観てると、やっぱり今の時代を意識していることが分かるから、やはり浪曲にも生かされてるのですよね。

隼:そうですよ。映画って自分たちの青春時代に流行ったものをいつまでも引きずってしまいがちなんですけど、どんどん時代が流れていき、映画も発展する訳ですから、それに合わせて自分も観なアカンと思いますよね。

―なるほど。ちなみに浪曲の参考になった映画で印象に残っているものはありますか。

隼:邦画で印象に残ってるのは役所広司の「山本五十六」。「山本五十六」をする時に勉強で見ました。三船敏郎が演じてる方が昔の軍人の雰囲気は出てるんですけど、僕がイメージする山本五十六っていうのは役所広司そのものでしたね。責任の擦り付け合いで、擦り付けられた役所広司がジッと堪える姿とか。

―隼人さんは10代の頃に山本五十六をネタおろしされてる訳ですもんね。役所広司や三船敏郎を観て勉強するだけでも、いかに難しい役かが分かります。ぜひ今の隼人さんの山本五十六も観てみたいです。

3.10年後の浪曲界

―次は全然話を変わって、10年後の浪曲界や隼人さん自身についてお聞きします。10年後の浪曲界や自分を想像したりしますか。

隼:やはりレコードを覚えてやってるだけじゃダメですよね。浪曲は古典芸能でも伝統芸能ではなく大衆芸能なんですよ。大衆演劇なんてみたら、常に進化してます。LED電球も駆使したりして。落語でもそう、講談でもそう。常に進化してます。でも浪曲はいつまで経っても目標としてるのが昭和50年代というきらいがある。勿論レコードを聞くことは大切なんですけど、浪曲は己自身の浪花節というものを作っていかないといけないんですよ。レコードを聞いて真似してたらそりゃ上手く聞こえますよ。でも己自身の浪曲とはそんなんじゃないんです。

―隼人さんが常に言ってることでもありますよね。偉大なる先人たちにリスペクトを持ちながらも、自分自身の浪曲を追求する姿勢。

隼:こないだの名人会に出演した月子さんも「豊田佐吉」「東男に京女」だったり、自分オリジナルの台本で自身の世界を作ってて、スゴイと思いますよ。

実はぼくも、現代の価値観と浪曲の価値観がかけ離れてきてて、自分自身どうやって舵をきっていけばいいのかわからないのと難しさは感じてるんですよね。僕自身が考える浪曲とはかくあるべきという考えを、皆さんに知ってもらうのも簡単ではないですし。

―隼人さんが考える浪曲というと。

隼:どういうことかというと、大師匠の初代真山一郎は師匠の華井新の浪曲とは違う自分の浪曲を作るんだと歌謡浪曲を始めた。この姿勢こそが真山の浪曲だと思うんです。

―そうですよね。真山家イコール歌謡浪曲っていう発想は間違いじゃないかもしれないけど、真山家の精神はそこではないのですよね。こういうことを伝えるのは難しいですよね。

隼:だから、僕は本を書きたいなと思ってます。「浪曲の遺言」。「現代浪曲論」じゃないけど。書きたいんですよね。若気の至りのうちに、そこで浪曲の未来を語りたいですね。そして最後に書くことは、

「これだけ書いたけど、これだけを信じないでください。やはり貴方の目で確かめていただきたい。何と言っても最優先しないといけないのは現代の生きる浪曲なんです。現代の浪曲、生きる浪曲を観に来てください。そのためには我々は現代の浪曲をしなければいけない。」

―カッコいい。過去に答えはないですもんね。

隼:そうなんですよ。過去を踏まえて現代社会と合わせて、今どういう浪曲をするのか。お家芸だけじゃダメなんです。自分自身が10年後どうなるかはわからないですけど、30歳まで毎月ネタおろしをしてたらちょうど100回になるので、これでネタおろしは止める。やりたいのがあればもちろんやりますけど、自分にネタおろし課すのはいったんそこまでと思ってます。

まあ、他のことできなですから、一生懸命に浪曲やるだけです。偉そうなこと言いましたけど、浪曲にお世話になってるんで、いずれは浪曲に恩返ししたいですね。がんばります。

0コメント

  • 1000 / 1000

十三浪曲寄席:大阪・十三にて毎月開催中~浪曲で日常をもっとたのしく!~

毎月1回、十三のシアターセブンにて浪曲寄席を開催しています。