京山幸太 浪曲における自分らしさとは 2021年12月号より

1.浪曲における自分らしさの発揮とは

2.迫るR-1予選に向けて

3.「京山幸太の完地下ラジオ」配信開始


1.浪曲における自分らしさの発揮とは

―まずは最近の幸太さんの浪曲に関する話からお聞きしたいと思います。私個人としては

先月一心寺で聞いた「鬼若三次」がとても印象に残りました。

幸:あのネタ一年以上ぶりでした。たまにはやらなアカンなと思って、三日前くらいからく

り出したら、パッと出来たというか。たぶん覚えたまんまとは大分言葉も変わってると思い

ますけど。

―そうですよね。私の知ってる初代幸枝若師匠の音源と比べたら、だいぶ省いてる部分もあ

りました。

幸:音源と比べるとだいぶ軽いと思います。最初は先代のレコードのまま覚えましたけど、

師匠に「それはレコード用で回りくどい言い方で時間稼ぎ多いな」って言われたので。

―あれは時間稼ぎとも捉えられるのですね。

幸:そうです。だから、そういう部分は省いて覚え直したこともありました。そこから一年

半か、もしかしたら二年くらいやってないんですけど、こないだはくりなおした時に更に要

らんとこを省いたんかもしれないです。

―すると、今回は敢えて省いた意識はなかったのですね。

幸:なかったです。まだちょっと回りくどいと思ったりもしますけどね。

―どの辺りですか?

幸:節の文句もそうですし。なんか分かりにくいというか。浪曲らしいと言われたら、そう

かもしれないですけど、ちょっと硬くてウチのネタぽくないなぁと。

例えば最後の鬼若と浮き世藤兵衛紹介するところももっと良い言い方があるような気がし

ますし。あと、丑五郎を裏切って子分たちが出て行くところももっと言い方がありそうです。

それも今みたいにやらへん時期があって、またやり直した時にフト自然な言い回しが出て

くるのかと思いますね。

―自然な言い回しという意味では、丁稚が丑五郎を呼ぶ時に先代は北枕って言ってますが、

幸太さんはバカって言ってましたよね。

幸:本当ですね。たしかに。

―それも意識せずに?

幸:意識してなかったですね。ストーリーだけ覚えてやってるからですかね。

―そういう細かい表現も無理なく幸太さんの感じが出てたのかと思いました。

幸:自然と出てたんですかね。

崩したら良いってもんでも、分かりやすかったら良いってもんでもないんですけど自分の

ノリやすい形に勝手になったんかもしれないです。

今日も小鉄の少年時代をやったんですけど、それも覚えた時と違うと感じました。けどそれ

が今の自分にとって自然な言い回しやと思えてます。これについては師匠も「覚えた通りや

る必要ないし、崩すのはアカンかもしれへんけど、やり方を変えるのはええことやから、自

分の気持ちの乗る言葉に直してやれよ」とはずっと言われてました。

今の自分がそうなってるのか崩れてるのか分からないですけど。

―幸太さん自身は自分が崩れることに対する恐れはあるのですか。

幸:気はつけてますね。ただ今は師匠がそれを言ってへんから、たぶん崩れてないと考えて

ます。以前には節の流れが崩れてるって言われたことがあるんで。そっから意識して、最近

良くなった気がします。

―言われたのはいつの話ですか。

幸:一カ月前とかです。

―えっ、ごく最近ですね。

幸:最近ですね。「なんかお前最近節の流れ悪いな」みたいな。間違ってないけど心地良く

ないっていう。取ってつけたような、その場で無理矢理捏ねくり回したような節というか。

変に考え過ぎやって言われて、確かにそうやなと思って。自分でも節の流れを意識して稽古

して、そうすると自然と啖呵のメリハリも意識するようになって、それがキッカケで何か変

わったのかもしれないです。

―そういう点に気をつけられるのですね。他に幸太さんにとって崩れてるとはどういう状

態になることでしょうか。

幸:色んな崩れ方があるんですが、例えば間が悪いとか。啖呵がセリフになってるような。

セリフが流れてるような状態。心地良い流れではなく、意味がなくなって流れていってしま

ってる状態。

―言葉の上部だけなぞってるような。

幸:そうですね。あと声色とか。一本調子になってるなとか。これは自分でも自覚すること

があります。

―そうなんですね。幸太さんの浪曲を聞いてそう思ったことなかったですが。

幸:今でももっとメリハリは付けれると思います。上の人を見ればキリがないですけど、月

の栄師匠とか。

―浪曲の声色って人によっても様々で、ラジオドラマのように声色を変える方もいらっし

ゃれば、落語のように声色を完全に変えずに口調で表現する方もいたり、一つに収まらない

ですよね。

幸:そうですね。声色があるからメリハリがあるわけでもないし、メリハリっていうのはテ

ンポもありますし、声量もあるし。

―色んな要素があるんですね。

幸:それが悪い時は全部同じ読み方になってて、これに自分も陥る時があります。

例えば鬼若三次で、丑五郎の悔しい気持ちを表現する「丑五郎はこんなに悔しい気持ちはな

かった」の「こんなに」の言い方一つとっても幾らでも言い方があるんですよ。その中から

自分も気持ち乗って、お客さんにも伝わる言い方を選んでいく、それの積み重ねなんだと思

ってます。

―そういう意味では一心寺の鬼若三次は丑五郎の背景とともに気持ちが伝わってきました。

堅気からも信頼される、物の分かった親分であることや、その人が悔しさに耐えかねる感じ

とか。

幸:十人斬りの熊太郎とは違いますよね。

―熊太郎は感情が先行してる感じしますよね。

幸:鬼若三次の登場人物やと意外と浮き世藤兵衛やってる時が楽しくて、貫禄もあるし、丑

五郎を前にして敢えて落ち着いた空気を出すところは自分も焦らないように気をつけて、

丑五郎宅を出る時にはバァッやらないといけないし。

―あそこも見せ場ですよね。

幸:ああいう場面もあるから自分としても好きなネタんですよね。

―そうですよね。カッコイイネタですけど、あんまり舞台でしないのは理由があるのですか。

幸:今回 1 年以上やってなかったのは、自分は好きやけど、ウケるネタじゃないからです

ね。笑いどころは多くなくて、前半は説明が多いんですよね。

―そうなんですね。

幸:浪曲を普段から聞く人だとそう感じないかもですけど、やっぱり落語家さんの会とかだ

と難しいですね。

それでやる機会を逃してたんですけど、一心寺は浪曲ファンが来る会なので、ようやくやれ

たって感じですね。

あと、お笑いのネタ作るのに必死で、ネタをくり直す余裕がなかったという理由もあります。

ただ、それを理由にして怠けてたらアカンなと思って今回頑張ってくり直したんです。

結果的に、台本通りやらなくても出来る自信もついてきたし、自然と気持ちの乗る言葉が出

るようになってきたのかなと思いますね。

覚えたままやらないと、次の言葉が出ない時期も最初の頃はあったんで。それはさすがにな

くなったし、気持ちの乗ることを優先してできるようになってきたのかもしれないです。こ

れで崩れてなければ。

―気持ちを優先して出来るようになってきた、まさにこのタイミングだからこそ、来年は一

年間の「会津の小鉄」続き読みをお願いしました。

幸:飯安殺し…

―新しく覚えていただく演目も幾つかありますよね(苦笑)

幸:(飯安殺しを)師匠は舞台ではやってなくて、もしかしたら先代が舞台でやった音源が

あるかもしれないのですが。

―舞台向けではない台本なんですよね。でも、それを幸太さんがやった時に、これ普通に舞

台でも使える台本やんってなってほしいなと思ってます。

幸:それこそ鬼若三次に雰囲気近いところもあって。固いところもあって、笑かす感じでも

ないけど、節もあるし、浪曲ファンは好きなネタだと思うんですよ。だから、自分はやった

ら好きなネタになると思います。

―そういう意味では幸太さんだからこそ、お客さんにも伝えられる部分があると思います。

こないだの鬼若三次もそうだったように。

幸:ネタおろしでどこまで、その味が出せるかは分からないですけど。先代の音源で覚える

ので、最初は先代に似るとは思うんです。

節は一回そのまま覚えないと、そんな簡単には崩せないんで。めちゃくちゃいい節を先代が

つけてくれてるんで、なかなかそれは超えれない気はします。

―節で音源と変えてる部分もありますよね。

幸:変えてます。ただ、浪曲師からすると「ここでは絶対にこの節を使いたい」ってポイン

トがあって、そこに至るまでは自由にやってるんです。ただポイントの節ってのがあるんで

すよね。幸枝師匠の節だったり、先代の作った節だったり。

小鉄の加茂の河原なら「河原のこととて〜」の節は言いたいんですよね。

名張屋なら「ハラハラと降りかかる、死んだ女房の〜」とか。

そこの節が好きなネタとかはどうしてもなぞります。

―たしかに加茂の河原のその部分いいですね。その節で聞きたくなる。

幸:良いですよね。小気味良くて。

―これだけの節を残されると新しいものを作るのが本当難しいですね。

幸:そうですね。でも、どっちみち真似だけじゃダメですからね。自分は先代とも師匠とも

育った環境も違うし、真似だけでは、到達できない領域があるんで。崩さず変化しないとい

けないですね。

2.迫るR-1予選に向けて

―R-1 が近づいてまいりました。一回戦は大阪で出場されるのですよね。

幸:そうです。一回戦は大阪で出て、その後は東京のつもりです。

事務所の人からは今年けっこう狙えるって言ってもらってるから、頑張らなアカンと思い

ますね。

―楽しみです。本番のネタはもう決めてますか。

幸:今は色んな会に出て、ネタの半分はウケてきたギャグで固めて、残り半分は新しいギャ

グを試すような形で、最終調整していってます。

―なるほど。

幸:三回連続でウケたら、本番で使うように採用して、あとはネタの精度を上げてるように

してます。

―そういう風にしてネタを磨いていくのですね。今回の具体的な目標はありますか?

幸:ホンマに最低でも準々決勝ですね。目標は準決勝。それ以上は運もあるんで、決勝は運

が良ければいきたいですけど。

―準決勝すごいですね。本当に関門がいくつもありますもんね。

幸:だから、ちょっとでも悔いが残らへんように東京行こうと思って。

―ピン芸人として前回からの変化はありますか。

幸:めちゃくちゃ変化してます。ネタを書いたり、書き直したりめっちゃしたんで。スベル

こともあるんですけど、試して試行錯誤するスパンがめっちゃ早かったと思います。

―東京で開催されている事務所ライブでも順位が上がってきてますよね。

幸:最近上がってきました。こないだは 2 位でした。

―おぉ。

幸:会に出ても、ピンは漫才に大体負けてるんですよ。向こうは二人がかりで、ボケの数も

多いし。それでもこないだは 2 位までいけたのは有難いなと思いました。

―漫才もピンもいっしょに出る会やったんですね。

幸:そうです。本当は漫才にも勝たないといけないんですけどね。

でも、大阪で地下ライブ出てもなかなか勝てないんですよね。しゃべくり文化やし、皮肉言

うネタより、しゃべりのネタの方がウケるし、単純にボケ数も多いし。ただ、大阪でも最近

は上位 1/3 くらいには入れるようになって、ピンの中ではけっこう上の方までこれてるか

なと思いますね。

―成長に結果が伴っているのがわかりますね。

幸:この一年は自分なりに本気でやってきたんで。R-1 もめちゃくちゃ緊張します。

―幸太さんが緊張を口にするとは珍しい。

幸:必死でやったから余計に。テキトーにやってたら、まぁしゃないなって思えますけど。

頑張った分緊張します。

―一発勝負の舞台ですしね。賞レースならではの緊張ですね。頑張れば頑張るほどに緊張も

増すという。

幸:そうですね。ソニー入った時点ではキャラ芸人で一発屋で売れて終わったらええやと思

ってたんですけど、そういう時代じゃないってことに気づきました。エンタの神様もないし、

ある程度賞レースで結果残さないとダメやし、そうなるとちゃんと面白いネタ作らないと

いけないし、だからめちゃくちゃ考えが変わってきました。

3.「京山幸太の完地下ラジオ」配信開始

―最後の話はポッドキャストについてです。急に始まりましたが、どういったきっかけで始

められましたか。

幸:ラジオ大阪でやってる「浪花ともあれ浪曲ざんまい」の作家さんが、芸人としてトーク

力の地力つけとくことが長い目で見たら絶対に大切やって言ってくださって。文枝師匠や

鶴瓶師匠がテレビやラジオで支持されてるのって落語っぽく喋らへんからというのが要因

としてあるというか。だから、浪曲師としてではなく京山幸太一個人として発信する力を付

けた方がいいとアドバイスくださったんです。

まさにそうやと思って。今の「浪花ともあれ浪曲ざんまい」でも話せることはあるけど、ほ

のぼのした番組やから、出せない自分の一面もあって。毒のトークもできるような場がほし

いとも思ってたので、そのアドバイスとも合致して。とりあえず視聴数も気にせずに、自分

の喋りたいことを発信していくことが、将来の自分のためにもなるかなと思って始めまし

た。

―トーク力があると人を惹きつけますもんね。大切な力だと思います。

幸:そうですね。トーク力をつけることと、自分が何を話したいのか、それを自分自身がち

ゃんと把握することにも繋げたいと思います。

―何を話すか考えると内省できそうですね。

幸:そうなんです。だから、やるに越したことないなと思って。日々エピソードを気にして

過ごすようになりますし。不意に話を振られた時に、ちゃんと 3 分喋れる力って大事やな

と思うんで。

これは浪曲にも繋がるし、結局浪曲会も楽しくないとお客さんにも来てもらえないですか

ら。

30 代後半の自分がトークもコントもできて、もちろん浪曲もしっかりやってて、そういう

自分の理想像に近づくには今ポッドキャストもやってた方がいいなと。

―そうなんですね。幸太さんのお笑いやトークに対する熱量はこれまでに増して上がって

いる気がします。

幸:お笑いへの熱はずっとありますね。飽きてないですね。浪曲にも通じてるからだと思い

ますけど。仕事に役立たないことはすぐ飽きるんで。

―お笑いを始めた時は、一発売れたい、そんなスタンスでもあったと思いますが、そこも変

わってきてますか。

幸:あんまりしがみついたらアカンとは思うんですけど、求めてもらえるなら出たいですね。文化人としてではなく、第一線のお笑い芸人として。浪曲さえしっかりできる環境ならそうしたいです。

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