真山隼人×京山幸太 東京公演特別対談
目次
1.関東と関西の浪曲
2.関西の芸はコッテリ?
3.反応も違う?
4.入門者をいかに増やすか
5.年齢を感じる今日この頃?
6.中堅道
1.関東と関西の浪曲
―今回は十三浪曲寄席として初めての東京公演ということで、浪曲における東京と大阪の違いについて聞いていきたいと思います。まず芸の面についてです。
幸:関東でも関東節だけをやる人はだいぶ減ってきてますよね。
隼:関東は関東節のほかに中京節や九州系統の関西節などの演者がいてバラエティ豊か。
―東京の方がバラエティ豊かなんですね。
隼:関西にはうかれ節からの系統を汲むものが多く残っていて、その中で今なお残る現代的うかれ節が幸枝若節だと僕は思ってます。
幸:なるほど。
―関西は浮かれ節からの流れがあり、関東は色んなものが混ざっている。こんな認識でいいでしょうか。
隼:旅をして行き着いた先が都やったってオチでしょうね。
―関西から東京に出て行く人は少ないですもんね。関東の方も関西節をされますが、同じ関西節でも関西と関東で違いはありますか。
隼:なんて言うんやろな。浄瑠璃やうかれ節からとったものと雲調とは違うって感じですね。初代の京山小円という人は義太夫のレコードが残ってるくらいですからね。
幸:ええ、すごい。
隼:やっぱり義太夫とか浮かれ節の匂いが残ってる。これは東京にはないですね。幸枝節が江州音頭からとってるのもそうですし。これはやっぱり大阪の宝です。
―大阪だけで育んできた文化があるんですね。
隼:同じ浪曲でも、関東と関西で発生が違う。それが巡業とかで混ざっていく中で、みんな東京に寄せ集まる、一方で大阪は大阪で出来上がっていくみたいな。だから、別もんでしょうね。
―なるほど。昭和以降の話では、私の想像では関西、浪曲親友協会にとって梅中軒鶯童先生の存在が大きいのかと思っています。そこも関東との違いになりますか。
隼:そうですね。大阪のネタを解体していくと、大体が鶯童先生のネタってわかる。
幸:すごいですね。
隼:高山俊春(梅中軒鶯童の作家名)というのが大阪の浪曲の礎になってる。
逆に東京にそういう人がいたのかというと、諸説ある中で、楽浦師匠が野口甫堂の名前で台本を二千冊くらい書いてる。「野狐三次」や「亀甲縞」やら。
―台本を残す人はやはりすごいですね。後世に残っていくといいますか。
最近になると、交流も盛んになり、関東と関西の違いもなくなりつつあるのかと思ったりするのですが、実際どうでしょうか。
隼:今も違うのは関西弁やることだったり、三味線の調子もそうですし。
幸:こっちの浪曲でも関東節を入れたりしますしね。混ざったりはするんじゃないですかね。
隼:だから、好きな節をとっていったら良いんやと僕は思いまよ。そこから新たな自分の節を作っていく。過去の先人の財産を取り入れて、作ったもんが勝ちですよ。
―節は誰の節を使うのも自由ですもんね。
2.関西の芸はコッテリ?
隼:関東はサラッとした芸で、関西はコッテリした芸って言うけど、コッテリしてるんじゃなくて、はんなりしてる。朗々としてるねん。
幸:たしかにそうですよね。
隼:コッテリしてる人のは耳に残るかも知れへんけど、上手い人のはコッテリしてない。
幸:うちの師匠も言ってました。上手い人は節が明るいって。
隼:そう!晴海師匠でも明るいし、満月先生でも暗くない。
幸:同じ節をやってるはずやのに、もっちゃり聞こえたり、明るく聞こえたり違うんですよね。
隼:それはねぇ…。
幸:なんなんですか。
隼:明るくやってるんや。
一同:(笑)
幸:節の軽さだったり。
隼:濃くやるのが関西節やって考え方は僕は違うと思う。濃いのは濃いけど、上手い人はサッパリしてる。
―コッテリ的な胃もたれする感じはないですもんね。節は長くてもサラッと聞けますし。
隼:月の栄師匠をクドいって言う人もいるんやけど、それは生で聞いたことないからやと思うんです。例えば歌舞伎座で月の栄師匠を聞いたらちょうど良いと思う。一心寺とか、文楽の小ホール規模で想像するからクドいのであって、実際に月の栄師匠が立ってた歌舞伎座や朝日座を想像するといいんですよ。だから、関西節はコッテリしてない。上手い人はコッテリしてない。でも、僕は今度の木馬亭でコッテリした関西節を聞かせますよ。
幸:お楽しみいただきましょう。
―(笑)
3.反応も違う?
―関東と関西の違いはお客さんの反応にもありますか。例えば、拍手が来る来ないだったり。
幸:自分は関東の方が来る気がします。
隼:そうやね。有難いこととして、まだよそから来たモノとして、盛り上げてくださってるというのは感じるね。
ただ、それに慣れてしまうのは良くないから、関西で地に足つけなアカン。
―お二人の感覚的には関西の方が厳しい。
隼:厳しいのは厳しいんじゃないですか。
幸:関東だったら、たまにしか見れない分、そういう風に聞いてくれるし。こないだ小鉄の少年時代やった時も特にウケましたから。逆にそれに甘えちゃいそうで怖い。
隼:でもね、毎月行くようになると、関東の人も慣れてきてね。いい感じで隼人というポジションでやらなアカンと思ってる次第で、これは難しいね。
浪曲の「稲川と新門」でも関西から江戸に出てきた稲川(関取)がうだつが上がらんまま帰ろうとしたところで、新門が「二、三年我慢して、江戸の稲川と呼ばれるようになってみろ」引き止めるんやけど、そういうのが案外いいのかもしれない。
でも、そこにどっぷり浸かると大阪でやってきた良さがなくなるから、ここに住んであくまでも通うのが重要やなと思います。
幸:そういう意味で、他ジャンルですがミルクボーイさんがベストなポジションやなと思います。
隼:そうやな、あとオール阪神・巨人師匠とか。
幸:最高ですね。
―関西芸人でありながら、関東でもしっかり名前も芸も売れるのが理想。
幸:そうですね。
4.入門者をいかに増やすか
隼:関西には関西の良さがあるけど、東京の良いところは何といっても浪曲の小屋がある。これは大きい。
―間違いないです。
隼:東京は若い世代が盛り上げてくれてて、ここも嬉しいですよね。30代、40代。僕より年上ですけど、自分が入門した時のことを考えたら全然違う。
―関東の方が入門者も多いんですよね。いいですよね。
幸:関西にも20代で入る人がいたらね。
隼:20代で入るようなアホなやつはいてない。
幸:ここに10代で入った人が二人もいてますけど。
隼:もうちょっと遅かったら、他にやりたい事見つかったんちゃうかな。
幸:ないでしょ。隼人兄さんに限って(笑)
―隼人さんは今からやりたいことを見つけても、浪曲と結びつけてやれますよ。お店とかでも。
隼:いや、お店はダメです。これからは宗教です。由井正雪みたいに人を集めますよ。
―信者が集まるのなら、弟子を集めてください(笑)
隼:そっちの方が早いですね(笑)。でも、ここからはマジで話で、浪曲をやってみたい人に浪曲の手解きをしながら、自分も共に学んでいく道場みたいなのをやってみたいなと思ってます。他の誰もやらへんから。
―さくらさんの三味線教室を見ててもすごくいいと思いますし、隼人さんと幸太さんに憧れて浪曲の世界に入ってくる人がいるはずです。
隼:だから、アンタ(幸太さん)もやりや。
幸:自分はまだちょっとようやらないです。ぜひやってほしいですけど。
隼:関西はもっと開けた方がいい。どう切り開いていくからやで、それを自分でやるしかないと思っています。まだ自分の勉強もたりてないから、それもせなアカンしけど。
やっぱ僕は関西に関しては浪曲教室とか、浪曲を教えるところを一人一ヶ所ずつ持つことやと思いますね。
―すごい提言や。
幸:できるかな。
隼:難しいけど。あとはすごい活躍するか。どっちかですね。
意気込み
―それでは東京公演に向けて意気込みをお願いします。
二人:…。
幸:ありますか?
隼:(笑)
幸:自分は天邪鬼なんで、スゴいネタを期待されると敢えて軽いネタをやりたくなるんですけど、でも今回はスカさずにしっかりぶつかろうと思ってます。後ろに遠慮せず、やりたいネタを思いっきりやろうと思ってます。
隼:いつも不調法な浪曲なんで、懸命に努めます。
幸:ズルくないですか?(笑)
隼:今のはズルいな。反省してる(笑)。でも、負けずに頑張ります。ホンマに。それしかないです。若いのここにありって感じで。
5.年齢を感じる今日この頃?
隼:あと、今日聞きたかったことがあってん。ちょっと頭硬なってると思わん?考え方とか加齢を感じない?
幸:加齢かは分からないですけど、自分は自撮りをするとか、町田康さんと知り合ってから恥ずかしくなってて。
隼:なんで?今いいよ!
幸:もっと無茶苦茶できたのに、ふざけられないというか。
隼:なんで?ルギアよかったやん。
幸:ネタとしてならいいんですけど、自己顕示するのが恥ずかしいというか。そこは歳かなと思いますね。イキれないというか。
隼:イキれないのはあるよね。
―私はインスタで写真を上げる感覚が分からないです。
隼:そういう人にはこの真山隼人のインスタを見せましょう。
一同:(笑)※ぜひ真山隼人のインスタグラムをご覧ください。
幸:こういうのがいいと思います。
隼:あげることないもん。
そういうのもあるんですけど、二十代後半に差し掛かって、「年取ったなぁ」って初めて思って。
幸:出来る事と出来ない事が分かってきてしまった気はします。自分が才能ないこともあるし、こっちは頑張ったら伸びるとか。何にでもチャレンジする時期からは外れて気がします。
隼:気持ちわかるなぁ。自分の中でちょっとズルくなったと思うねん。
―どういうところですか。
隼:何でもやると思いながら、ええ感じで力が抜けるようになってきた。
幸:それは一概に悪いことではないですよね。
隼:すぐに諦めるようになった。
―今の活動を見ていると十分挑戦しているように見えますよ
6.中堅道
―隼人さんは芸歴13年、幸太さんも9年で、若手と呼ぶべきなのか、自分も迷う時があるのですが、ご自身ではどう考えていますか。
幸:13年ってもう中堅て呼ばれるところですよね。
隼:いやいや、まだあかん。
―中堅になるって一番難しいですよね。
隼:最近思ってるのが、中堅に差し掛かって挫折する人がけっこういる。いかに中堅をしっかり務めるかは難しいですよね。
幸:難しいですよね。売れるか、めちゃくちゃ上手いかどっちかですよね。
隼:そう。面白いとかでもいいんやけど、いかに自分なりの中堅道を歩めるか。
―たしかに、若手らしさは世間が求めるけど、中堅らしさは世間があまり求めないから、自分で道を決める必要がありますね。
隼:実はその中堅道を考えてて、ブイブイ行くのとは違うところで、地に足をつけた勉強しないといけないと思ってる。つまり、年輪と芸歴を合わせて上げていかないとドツボ踏むと思ってます。
幸:さっきの得て不得手で言うと、自分は会を企画するのが苦手で、こういうところを苦手なまま中堅をどう務めていくべきか悩んでます。
隼:そんなコンプライアンス違反浪曲会とかやったらええねん。
幸:そんなん思いつかなくて(笑)。隼人兄さんとかすごいなと思います。
―隼人さんのアイデアはすごいですよね。
幸:そういう意味で十三浪曲寄席は有難いです。
―こちらも有難いです。でも、その中堅道はお二人の浪曲物語の第二章という感じですね。
隼:第二章じゃないですか。
幸:どうなんるんでしょうね。
―想像もつかないところがまた楽しみです。これからも引き続きよろしくお願いいたします。
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