京山幸太独演会10月開催へ 2022年10月号より
目次
1.今月は京山幸太独演会
2.お笑いライブで養われること
3.お笑いの経験が浪曲に生きる
4.独演会での「パンク侍」に向け
5.「花嫁仁義」聞きどころ
6.上手いことやってたらいいのか
1.今月は京山幸太独演会
―まずは今月に開催される「第二回京山幸太独演会」の話からお聞きします。演題の「パン
ク侍、斬られて候」とゲストの旭堂南海先生はどういった理由から選ばれましたか。
幸:今年一番頑張ったこととして、町田康さんの作品の浪曲化(パンク侍、斬られて候)と
会津の小鉄の連続読みがあって、そこが外題とゲストにも繋がってます。ゲストは元々決ま
ってたんですけど、結果的にそうなりました。
―外題は初めから決めてたわけではないんですか。
幸:去年の独演会が終わった時点で会場は押さえてたんで、決めてなかったです。
芸祭を受けるにしては、少し攻めた外題選びかもしれないですけど。まずはお客様に楽しん
でもらうためにやってますし。
―芸祭の審査には伝統とか継承が基準になったりするのですかね。そういう意味では浪曲
「パンク侍」は幸太さんがこれまで師匠から受け継いできた浪曲の要素で構成されている
ので、ズレてないのかと思います。
幸:そういう風に見てもらえると有難いですけど。たしかに、パンク侍を浪曲にする過程に
おいては、ウチのネタから節も引っ張ってきて、構成も染みついてるものを使ってるので、
結局古典に通じるやり方ではあると思います。
―そうですよね。公演自体は幸太さんのパンク侍(前編)(後編)の間に、南海先生の講談
が入る形ですか
幸:そうです。パンク侍の間に挟まれた南海先生に申し訳ないとも思ってるのですが、そこ
は自分が心配するようなことではなく、南海先生は最善の演題を選ばれるんだろうと思っ
てます。だから、尺だけ指定して、演題はお任せにしてます。
―南海先生すごい役目ですね。芸祭の公演のゲストで、パンク侍に挟まれて。どうせなら、
パンク侍中編をやってもらったらいいのに(笑)
幸:南海先生は当然すごいんですけど、古典の知識だけじゃなく、現代的な感覚もあって、
だからこそ、その中から最善手を選んでくれるんじゃいかと思ってるんで。加古川の独演会
に来ていただいた時も、加古川にまつわるネタをされて、地元ネタとか全部ウケてましたか
ら。最新の話題も入れつつも、ぶっ飛び過ぎず、本筋を冷めさせず。
―会場の誰もが笑えたり、興味を持てる話題を色んなところから引っ張ってこられますよ
ね。南海先生の演題選びも楽しみです。
2.お笑いライブで養われること
幸:脱線しますけど、今自分は浪曲の古典をやりながら、お笑いもやってることで、新しい
浪曲を書くとか、古典の中にそういう新しい要素を入れる余裕がないんですよね。既に自分
の中でキャパシティをオーバーしてるというか。
―それでもお笑いをするのは、お笑いを続けることで培ってる部分があるのですよね。
幸:そうです。先日、所属事務所(SMA)のお笑いライブに出たんですけど、そのライブが
事務所で一番上のランク(NEET)のライブで。そこで自分もけっこうウケたりとか。キン
グオブコントの決勝にも出演する「や団」さんも出演していて、声かけてもらえたり、自分
の中でも広がったんで、お笑いも自分にしかできないことが出来てるという感覚もあるん
です。こういう繋がりがまた生きてくると思いますし、やっぱり他の浪曲師がやってないこ
とをやっていかなアカンと思ってるし、ちょっとずつネタもウケてきたんで、自分にしかで
きないことを探してるって感じです。
―たしか、以前のインタビューで、去年が種を蒔く年だったから、今年は芽が出るようにし
たいと語っていたと思います。その結果が出てきた感じでしょうか。
幸:収穫したいと思ってたんですけど、意外と時間かかるなと(笑)
―NEET の会場や楽屋の雰囲気はいかがでしたか。
幸:まず、皆さんめちゃくちゃ普通にオモロいなって感じです。テクニックというと失礼な
んですけど、明らかに上手いなって感じました。
―レベルや次元が違う。
幸:違います。それで、みんなめちゃくちゃいい人なんですよね。自分にもアドバイスもく
れるし。
―それは嬉しいですね。
3.お笑いの経験が浪曲に生きる
幸:それと、このお笑いの経験が実は今回の十三浪曲寄席のネタ(花嫁仁義)にも生きてて。
―そこに繋がりますか。
幸:今回は会津の小鉄の外伝の「馬鹿為」か「花嫁仁義」で迷ったんですよ。
―そうですよね。なぜ「花嫁仁義」を選んだのか聞きたいと思ってました。
幸:馬鹿為は自分のニンに合わへんくて、それこそ、師匠らし過ぎるというか。
―幸太さんがやるとワザとらしく感じるキャラクターかもしれないですね。
幸:そうなんです。うまいことできないと思うんですよね。それに対して、「花嫁仁義」は
女性が多くでてて、やりやすそうやなと思って選んだんですけど。
いざ、とりかかると、レコード用のネタなのでけっこう余計な部分もあったんです。
―あの CD 長いですもんね。
幸:40 分くらいあるんですけど、自分はこれを 30 分以内にしたのと、筋はそのままでけっ
こう書き換えてて。前半部分は新しいくだりも作って、笑いを入れたりもしてます。それも、
先代の笑いとも違う、今のお笑いの笑いの取り方をしてるので、先代の台本からけっこう変
えてます。
―元々レコード用で、できてから何十年も経過しているので、そういう作業をすることで、
聞き手にとってはだいぶ馴染みやすくなりそうです。
幸:そうですね。それはやはりお笑いをやってたから、できたことだと思いますし。浪曲に
はない発想の仕方というか、漫画とかにあるんですけど。
―おぉ。それは見てのお楽しみですね。
幸:やり方は新しいことなんですけと、根本的には先代も同じようなことをやってたと思う
んですよ。武士が関西弁使ったり、邪道やと思われるようなこともやってたんで。
将来、新作を書くにあたっては、古典からの発想だけじゃなくて、今の感覚とか新しい発
想を入れたいと思ってるんで、お笑いをやってることも無駄じゃないかなと思います。
それが自分にしかできないことに繋がると思いますし。
4.独演会での「パンク侍」に向け
―では、独演会の話に戻して、パンク侍の後編を口演するのはネタおろし以来ですか。
幸:後編に関しては、我ながらですけど、わりとちゃんとしていると思ってて。浪曲っぽい
というか。途中にお笑いのコント調を入れてますけど、全体的に不安な点がないというか。
それに対して、前編は独特の町田さんの世界観があるので、初めて聞く人にそこをしっかり
伝える必要があって、そこに面白さも加える必要があるから、前編の方が聞かせるのが難し
いなと思ってます。
―なるほど。前編は特にどの辺りに課題を感じていますか。
幸:クライマックスの茶山の演説にもっていくまでに、もっと飽きさせない演出があると思
ってます。人物の紛らわしさをもっと分かりやすく伝える方法とか。だから、前編の方が試
したいと思ってて、何回か舞台でもかけました。前編で設定さえ振っておけば、後編はちゃ
んと浪曲なんは後編なんで。
―後編は浮きの節も聞ききどころですよね。
幸:今回は文楽劇場なんで、シアターセブンとはまた違う演出も考えてます。
―それはまた楽しみですね。ネタおろしの時から、変えた部分もありますか。
幸:十三浪曲寄席の東京公演で少し変えてやった部分があるんです。スカして笑いを狙った
ような感じで。でも、そこはあんまりウケなかったんです。だから、一回変えたけど、やっ
ぱり元に戻した部分はあります。大筋では変わらないので分かりにくいですけど、こうやっ
て少しずつ話に立体感が出ていくんやと思います。
5.「花嫁仁義」聞きどころ
―次は、花嫁仁義のことをもう少し詳しくお聞かせください。レコード用に書かれた外伝な
ので、他の「会津の小鉄」とは少し雰囲気や構成が違いますよね。最後の節なんかは特に尺
を引き伸ばすためのエピソード披露みたいにも感じます。
幸:あそこも書き換えようかと思ったんですけど、逆に節付けの特訓にしたいなと思って残
しました。ある意味、中身がないからこそ、浪曲っぽくて、節がいいと思われるようにやり
たくて。敢えて先代の音源は聞かずに、自分で節付けをやってます。
それをネタおろしの時に、師匠に聞いてもらったんですけど、「やっばりメリハリがない
な」と言われて。今度稽古をつけていただくんで、師匠が自分の節にどういう指摘をしてく
るのか、勉強になると思ってます。
―先代の節を聞いていないからこそ、幸太さんがリアルに評価される気がしますね。
幸:悪いところを正せられる機会にもなるかと思ってます。ネタおろしの時は、師匠に自分
で節付けしてることは言ってなかったら、師匠は「(レコードを録音した時の)先代の調子
悪かったんかな」って言ってたんで、やっぱり分かるんやと。「先代らしくてよかったぞ」
とか絶対言われないですもん。
―師匠の耳はごまかせないのですね。最後の節は長くて、聞きどころになりますよね。
幸:長いです。だから、作曲じゃないですけど、ここで抑えて、次でスパイス効かせて、そ
の次は泣かせて、みたいな塩梅が師匠とは違うんやなと思ってます。自分なりに工夫はして
るんですけど。緩急がないとか、高低の差がないとか。幸枝節らしさがないというか。ただ
ただ、やってるみたいな感じになってしまってるんやと思います。
―CD で聞いてても、長いからこそ、聞かせるのが難しそうなネタだと思いました。
幸:バラシがよっぽど出来ないと、聞かせられないですね。内容よりも最後の節で聞かせる
のは「鬼若三次」もそんな感じですし、意外と「弁慶五条の橋」もそうです。バラシで 12
分くらいあるんで。
―弁慶五条の橋も長いですね。
幸:あれは源平の話なんで、言葉も難しく、正直意味とかもどうでもよくなるというか、い
かにいい節をやるかみたいな感じもします。初めての人には不親切な話かもしれないです
けど、そういうことやらずに、新作ばっかやってたら下手になると思いますし。
―いつか節だけをやる会もやりたいですね。脈略のない言葉を並べて節だけで聞かせられ
るのかみたいな。
幸:浪曲も最初は「何が何して何とやら」から始まりますしね。
―サザンの桑田さんも最初は英語で歌詞書いてるらしいですから。
6.上手いことやってたらいいのか
幸:町田さんがラジオ大阪の「浪曲かたりがたり」で話してた「将来、正しい浪曲じゃない
かもしれないけど、なんやこれは!という人が出てくるかもしれない」
この話がすごく印象に残ってて。浪曲の構成にとらわれるだけも違うんかなと思ってて。ジ
ャズだって、クラシックから見たら間違った音使いですし。
―お行儀よく過去に倣えみたいになるのは違う気がしますね。
幸:そう言われると、たしかにと思うんですよね。いかにも上手い節を作りたいかと聞かれ
ると、もちろん作りたいんですけど、ホンマはそこじゃないというか。カッコいいと思って
始めたものなんで、上手いことやりたいわけじゃない気持ちもあるんです。
―そういう自問自答があるわけですか。
幸:そうですね。一門としてやるべきことや、これまでの浪曲を聞いて応援してくれている
人もいるし、かといって過去にこだわり過ぎてもアカンし。そういう意味で、パンク侍を浪
曲にするのは勇気がいりましたけど、やっぱりやらなアカンと思いました。
一回の人生で全てをすることはできないですから、自分がこれだけはすることをそろそ
ろ決めないとアカンのかなと思ってます。
―幸太さんにできないことを見つけるということでしょうか。
幸:うーん。どうなりたいのかをそろそろ自分の中で明確にしたいと思ってます。どういう
浪曲をしたいのか。あるいは浪曲の形も変わるかもしれないですし。今の形も雲右衛門が作
ったわけですし。町田さんが言うように、無茶苦茶な形ができるかもしれない。雲右衛門も
無茶苦茶やったんだと思いますし。
―型を壊すことですかね。浪曲生活が 10 年目に入り、そこにお笑いの経験が生かされてく
ることで、浪曲界の当たり前を壊すような発想を期待しています。
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