真山隼人インタビュー(2022年11月通信より)
目次
1.上方伝統芸能ナイト出演を終えて
2.公演「真山隼人 浪曲の世界」
3.『勧進帳』
4.『心の肩衣』
1.上方伝統芸能ナイト出演を終えて
―まずは先日出演した山本能楽堂での「初心者のための上方伝統芸能ナイト」の話から聞かせてください。今回の出演が初めてですよね?
隼:ええ、そうです。客席で声の聞こえ方はどうでしたか?
―よく聞こえてました。能楽堂だからか、声の響き方が違うのかと思いました。
隼:そうなんですよ!マイクも何もいらないんですよ。ズドーンと声が前に出ていくというか。やりやすいですね。
―私はワキ席にいましたが、横からでも、あれだけ声と三味線の音がハッキリ聞こえるってすごいことですね。
隼:自然のスピーカーというか。こんだけ響くのかと、あれは勉強になりましたね。
―自然のスピーカーっていいですね。能楽堂だからこその知恵や技術を感じます。そもそも隼人さんは今回能を見てみてどうでしたか。
隼:やっぱら格調高いですよね。
―大衆芸能である浪曲とは色んな意味で違いがありそうです。隼人さんも観ることはあるのですか。
隼:テレビで観ますし、今回「勧進帳」をするにあたっても、能の「安宅」を観ました。能の「安宅」から歌舞伎とかにも分裂していってるんで。でも、大阪にいて、失礼ながら、疎い芸能ではあります。
―珍しいですね。隼人さんが疎い芸能があるのも。
隼:いやいや、いっぱいありますよ。もちろん、落語と講談も知ってるのかと言われると、全然知らないんですけど。その中でも能は近くて遠い芸能でしたね。
面白かったのが、袖で筑前琵琶の奥村先生が戻ってきはったら、能の章弘先生があの衣装で待ってはるんですよ。あの威厳さって言うんですか…すごいなぁって思いましたね。
―衣装を着用した時から、この世のモノではないですもんね。
隼:落語とかだと、袖から見たりもするんですけど、それも失礼になると思って。この厳かな感じが。怖くて楽屋のモニターで勉強させてもらいました。
―足崩さずに、正座して見なアカン気がしますよね。
隼:そうです。すごかったですね。それと、筑前琵琶が面白いですね。
―浪曲に通ずる点もありますか。
隼:はい。声の出し方とか節の使い方とか。それから物語の運び方とか。やっぱり日本の語り物文化の一つであると思いました。奥村先生も言ってましたが、筑前琵琶は文語体でありますが、当日に披露された黒田節(黒田武士)は、浪曲とも似てるところと違うところを比べて非常に勉強になりました。浪曲にパターンがあるように、琵琶にパターンもあるんだろうなと思います。昔読んだ本に琵琶の演題に村上喜剣もあると書いてて、これも研究したいと思いながら全然できてなかったんで、この際、色々資料を集めて勉強してみようかと思う次第ですね。
―奥村先生とも話す機会できてよかったですよね。
隼:そういっても、奥村先生も威厳のある方ですから。
―簡単に話しかけられる相手ではないですよね。
隼:それでも、嬉しかったのはこの間のNHKを見てくださってて、感想を言ってくださったんですよ。
―それは嬉しい。浪曲にもアンテナを張っておられるのですか。
隼:初めて会ったのが、上方の舞台裏方大賞の授賞式で、賞状を手渡しするのが奥村先生だったんです。あの時、小円嬢師匠も来てて、奥村先生も入れて皆で写真撮ろうとした時に、奥村先生が小円嬢師匠に「名人会で師匠の赤垣を勉強させてもらいました。大変感動いたしました。」って言うてはるんですよ。すごいなぁと思って。
―小円嬢師匠の偉大さを感じますね。奥村先生も浪曲と筑前琵琶に近しいものを感じているのかもしれないですね。
隼:そうかもしれないですね。浪曲は何でもええと思ったものを取って、成り上がってきた芸能ですので、その姿勢は崩さず、今後も色々取り入れていかなアカンなと思う次第です。
―ちなみに、能の声の出し方と浪曲の声の出し方は違いますか。
隼:それは全然違うと思いますね。ただ、ぼくが最近、声を出してて思うのが、日々舞台を務めて、忙し過ぎやと言われますけど、枯れない声というのが、正式な出し方なんでしょうね。少しくたびれることはありますけど、枯れることはよっぽど喉から出さないと枯れないんで。
それと、能の人と狂言の人は声が大きいですね。
―大きいですよね。高い声という印象はないのですが。
隼:地を這うような声ですよね。身体もそんなに大きな先生ではないですからね。千之丞さんが「僕たち特殊な訓練をしてますから」と言ってましたが、それも分かる気がします。子どもの頃から響かせるようにお稽古を重ねてるんですから。歌舞伎の人でもすごいですよ。マイク使ってないんですよね。それでいて、会場の上の方にまで聞こえるように発声をされてて。
―文楽でもそうですが、すごい技術です。
隼:あの大きな声、見習わなアカンと思ってます。
―ああいう声が出ると、また魅力的ですもんね。
隼:うるさいって言われるかもしれないですけど(笑)
―たしかに(笑)。それでも、こんな風に色んな芸能の一流の人たちと関わる機会が増えていて、そこで隼人さんが吸収していくので、チャンスを無駄にしないというか。会の数だけ成長しているような。
隼:嬉しいですよ。あれやれ、これやれと言っていただいて。目かけていただいて。失敗せんようにと気はつけてますけど。浪曲会とは別のところで、新たな浪曲像を作っていかなアカンと思ってます。あくまでも、浄瑠璃や筑前琵琶、新内とは違う大衆芸能として。浪曲は古い大衆芸能ですから、自分なりに蓄積して、やっていかないけませんね。先人の財産がいっぱいあるわけですから。それをもって、自分にできることを。なかなか難しいですね。何やったらいいのかと悩むこともありますし、やっぱ突っ走ってやらなアカンと思ってます。本当に。
―そういえば、オープニングではベテラン揃いの中で、春蝶師匠が隼人さんに話を振っておられましたね。
隼:春蝶兄さんはいつもあんな感じで振ってくださるんですけど、あの場での気持ちはやっぱり分かりますよね。
―ベテランのお二人をイジるようなトークはできないですからね。隼人さんに笑いのパスを出してました。そこにも信頼関係を感じました。
隼:春蝶兄さんは、倒れて、家戻ってきた時に、電話いただいて、それが嬉しかったですね。
「お前家でゆっくりしてるのがいいか、仕事ふって馬力かけさせるのがいいのか、お前の身体的にはどっちや?」
「春頃から復帰しようと思うんで。」
「じゃあ、この仕事行ってくれ」
そう言って、仕事の話をもってきてくださったんですよ。結局、その仕事は行けなかったんですけど、そういう気遣いは本当に嬉しいですよね。
2.公演「真山隼人 浪曲の世界」
―「咲くやこの花賞受賞記念 真山隼人 浪曲の世界」について、お聞きしています。発表は最近でしたが、企画自体はだいぶ前から練られていましたか。
隼:咲くやこの花賞を受賞したら、こういう会があるのはお決まりじゃないですか。ゲストは菊水丸師匠がいいなと思ってたんですよ。お願いできるのか怖かったですけど、意を決して、師匠にお願いして、有難いことに来ていただけることになって。
―菊水丸師匠に出てもらいたい気持ちがまずありましたか。
隼:自分の独演会に出ていただきたいとは、ずっと思ってて。咲くやこの花賞決まった時に、病院で考えてたら、今回しかないなぁと思って。
―なぜ菊水丸師匠に出てもらいたい気持ちがあったのでしょう。
隼:そりゃ、やっぱり憧れの人ですから。
―菊水丸師匠も時代に合わせた新しい外題を創作されてきたそうですが、憧れるのはそういう点でしょうか。
隼:そうですね。伝承河内音頭継承者とも書かれていますけど、やっぱり新聞読み(しんもんよみ)でやってはって、例えばイラク戦争の話とか。
―そんな社会派なネタまで取り入れていたのですか。
隼:美空ひばり一代記とか。
―ボブ・マーリーがあったような記憶があるのですが。そんな話まで河内音頭にできるんやって驚きました。
隼:千代の富士物語とか色々やってはりましたよ。その中でも、古い音頭や浪曲の手法を取り入れてやってはる。まさしくぼくがこれからやっていこうと思ってることなんです。
―過去の型を受け継ぎながら、新しいものを取り入れていく。隼人さんとまさに共通してますね。
隼:だから、去年会いたいと声かけていただいた時は嬉しかったですね。倒れてる時もずっと支えてくださって。大先輩ですよ。
―菊水丸師匠とお会いしたのは去年が初めてですか。
隼:櫓とかでお見かけしたことはありますけど、ちゃんとお話するのは去年が初めてです。
―きっかけは何だったのですか。
隼:菊水丸師匠がネットで色々調べてた時に、僕の存在に気づかれたみたいで、和太鼓の三条史郎さんが一心寺の楽屋を訪ねてこられて、
「菊水丸さんがアンタに会いたいって言うてるで。連絡先教えるから、連絡してもろてもええか?」って言われて、
「えー?なんと急に!」
とそんな感じで、史郎さんに連れられて菊水丸師匠のお宅に伺ったのが去年の8月19日ですよ。
―その時に意気投合されたと。
隼:「あんな資料もあるんですね、こんな資料も」と。(菊水丸師匠は)浪曲だけの収集家ではなく、色んな物を勉強のために、映画だったり、ポルノだったりを収集されてるわけです。その中で講談の速記本コーナーがあって。「亀甲組」全三巻ですよ。今まで国立のアーカイブでは読んだことありますけど、原本を見たのは初めてです。その市場にも出回らない品が上中下で揃ってる。それを後日お会いした時に師匠から「これを君に」といただいて。
―隼人さんなら信頼できると思われたのでしょうね。過去の資料から勉強する姿勢は共通されてますし。隼人さんに渡せば必ずそれを生かしますもんね。
隼:そうですね。(菊水丸師匠は)自主制作のカセットも若い頃には沢山出してはって、それにヒントを得て、お手製CDも作ったわけです。
―そこにも影響を与えてましたか。
隼:そうです。ネタの作り方とかやり方も勉強させてもらってたんで。そんな憧れの人に向こうから、最初は声をかけていただいて。そして、独演会に出演いただけることが決まって、本当に嬉しいです。
それはすごくいいことだったのですが、先日アート館に行って、話を聞くと、座席がなんと318席!
―多いですね!隼人さんの独演会では最大キャパですし、300席以上の独演会ってここ最近の浪曲界でないのでは。
隼:ほとんどないですね。
―すごいなあ。そういう会を隼人さんが開くことが嬉しいです。また、その会をバックアップしているって咲くやこの花賞はすごくいい賞ですね。大阪の芸人さんを応援している感じがします。
3.『勧進帳』
―「浪曲の世界」で披露される「勧進帳」についてもお聞きしたいのですが、まずなぜこの会で「勧進帳」をトリネタに持ってきましたか。
隼:もともと文楽関連でいただいた企画で覚えましたけど、そこだけにするのはもったいないですから。それならもうちょっと大きいところでやろうと(笑)
―めちゃくちゃ大きいところですよ(笑)。「稲荷丸」だったり、ここぞという時にかけてきた演題は他にもありましたよね。
隼:それはもうみんな聞いてますから。
―大きい舞台ほど慣れた演題を選ぶのが定石かと思うのですが、敢えて新しいネタに挑むという。
隼:それはもう勝負ですよ。若いからできるんです。まだ二十代ですもん。こんなん三十後半になったらできないです。
―そういう心意気でしたか。勧進帳を覚えること自体が勝負でもあるかと思うのですが、その過程で気づくこともありますか。
隼:歌舞伎のビデオ観てたら、問答の最初はゆっくり言うんですよ。これは歌舞伎やからかと思ってたんですけど、いざやってみると、最初ゆっくりやっとかないと、どんどん早くなっていくから追いつかないんですよ。だから、最後のスピードを決めてどう落としていくかですね。それで、やっていったら歌舞伎と同じスピードになりました。
―なるほど。ひとつひとつの啖呵のスピードにまで意味があるんですね。
隼:難しいですね。こんな風に朱書きしたのは初めてですよ。ここは覚えとかなアカンとか、ここで切るとか。あんまり普段は書かんのですけどね。
―台本がいつも以上に作り込まれいるのでしょうか。
隼:長唄とか歌舞伎や文楽の台本と照らし合わせ、色んな浪曲の師匠の台本も見て、それを組み合わせて。だから、様式美の世界ですよね。ぼくは普段はマクラも言いますけど、やっぱり、こういう格調高いのをやる時はモノを言いたくないですね。スッーといって、やりたい気持ちはよくわかりましたよ。本当に。何も言わんと聞いてくださいと。浪曲というのはあくまでも大衆芸能ですけど、伝統芸でもあり、微妙なバランスで、古典芸能みたいな顔をしてる大衆芸能なんで。ぼくも勧進帳はそんな感じで格調高いんだということですね。
―なるほど。格調高さと関係あるのかわかりませんが、勧進帳ってほとんど啖呵のト書がないですよね。
隼:ト書は節でやってます。
―そうですよね。ほとんどの浪曲がそういうものでしょうか。
隼:奈良丸先生は啖呵でも言うてたりしますね。でも、あくまでも最小限にしようと思ったんですよ。歌舞伎でやっているものをやりつつ、ト書は節でやる。これは浪曲やから許される台本ですよ。
10年後読んでみて、しょうもない台本やと思って書き直すかも分からないですよ。それでも、今ぼくの持ってる力でできることはやりました。悔いはありません。
そもそも、文楽のお仕事でできるってことがまず嬉しいですよね。前に文楽で「勧進帳」やった時に、それを観に行ったんですよ。それで「こういう浪曲をやりたい」そう思って、文楽の担当の人にも話をしてたら、今回文楽で勧進帳をやる時に声をかけてくださっんです。
―すごい縁ですね。やりたいと思ってた演題が、また文楽の方から声がかかるって。菊水丸師匠もそうですけど、隼人さんは引き寄せますね。
4.心の肩衣
―最後は今回の十三浪曲寄席で口演いただく「心の肩衣」についてです。9月のネタおろしを拝見した時に、並々ならぬ気持ちの入り方を感じて、感動しました。
隼:ちょっと嫌なことがあって、悩んでたんです。
これは巴うの子師匠の台本で、ラジオか何かでやったんでしょうね。文楽、浄瑠璃の話というのはなかなかないですよ。
初めてお稽古した時に、三味線の清六師匠が怒る場面がありますよね。これが自分で自分に対する戒めのように感じて、ワァーッと泣いたわけですよ。こんなん初めてですよ。泣いて、これは何としてでもやらなアカンと思って努めました。
―「心の肩衣」では主人公が辛い思いをして、浄瑠璃まで嫌になりますが、隼人さんの置かれた状況と重なる部分があったのかもしれないですね。それを叱咤激励してくれるネタになったというか。
隼:あれがあったから開き直ることができました。周りは関係ないと。僕自身、目が覚めたというか。自分が語る清六に励まされて。
―すごいですね。音源では聞いてたのですか。
隼:ないです。面白いのが。台本を書いてる時は何とも思わんかったんです。家でやってる時も何ともなかったんです。それがいざ(さくら姉さんと)二人で合わしてみて、語ってみると、ウワァーって泣いたんですよ。
―へー!それじゃあ単純に内容に感動してるわけじゃないのですよね。三味線まで入った時に心が入るというか。
隼:そうですね!これはこれからよりいい台本にしていきたいですね。
―すごいなぁ。楽しみにしています!
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