真山隼人インタビュー(2023年1月通信より)

目次

1.連続読み「亀甲組」に向けて

2.2023年の目標


1.連続読み「亀甲組」に向けて

―今年から亀甲組の連続読みが始まります。「観音丹次」や「相馬大作」と続き読みをされてきて、今回なぜ亀甲組を選んだのかなどお聞かせください。

隼:僕が今の浪曲業界に思っているのが、続き読みと言ってるけど、今残ってる名場面だけを繋ぎ合わせているだけで、残っている話の前後を知らないことが多いと。でも、僕がマニアの力を最大限に生かしたら、その前後の話も発掘できるんですよ。

こういう感じでレコードを聞いてても、結局、続き読み全体としてどんな話なんか確かめてみたくなるんです。その中で一番気になってる外題が「亀甲組」なんですよ。

―亀甲組は主に残ってるのが「田村の義侠」と「木辻の廓」で全容がわからないですよね。

隼:「木辻の廓」は最大の聴かせどころやって言われてるんです。しかし、ホンマにそうかと。金工面のために、棟梁が自分の女房を廓に出して、その女房が敵方の組に体を売るのが嫌で、縄で縛られて殺される話が本当に一番の聴かせどころなのかと。そういう話を聴かせどころにしていいのかと。

そもそもこの話は伊勢、伊賀、近江の三カ国を結ぶ関西鉄道の工事を亀甲組が一手に受けて、ライバルの二引組が怒りだして喧嘩になる、土木の争いなんです。僕にしたら子どもの時から慣れ親しんだ三重の土地の話ですよ。それがどんな話なのか、気になってしゃあない。そんな思いを持ちながら、僕は今できる亀甲組をやってました。

―「田村の義侠」ですね。

隼:そうです。けど、なんか腑に落ちないんですよ。伊勢に住んだものとして、この工事のドロドロの話をどういう話かお客さんにも聞いてもらう。僕も分かりたいし。けど、国会図書館のデジタルアーカイブやとなかなか読み進められない。紙の本じゃないから。

そんな時に、河内家菊水丸師匠のうちにうかがう機会があって、亀甲組の本三冊を見つけたんです。

―やっぱり菊水丸師匠の家には隼人さんが欲しいものがあるのですね。それはどういった本なのですか。

隼:大阪新報っていう新聞で連載していた行友李風先生の小説です。行友先生やから絶対面白いはずやと思ってたんです。ただ、原本はここ十数年ぼくの知る限りは市場に出てこないんですよ。

そしたら、菊水丸師匠の家に上中下が揃ってる。初めて見ました。

隼人:「師匠ぉ!これ亀甲組じゃないですか!どうしたんですか?」

菊水丸:「巡業で信州かどっか行った時に買った」

隼人:「うわぁあ!いいですねぇ!これちょっと見せてください!」

って言うて、そん時は置いてきたんですよ。初めてお会いした日やったんで。

―いきなり欲しいとは言いづらいですよね。でも、気持ちは伝わってそうです。

隼:それで、河内音頭記念館でのセミナーの時に「亀甲組三冊を君にあげるわ」と言っていただいて。実は菊水丸師匠も「亀甲組」の連続読みをやろうと思ってたそうなんです。でもそれは「君がやったら、ええわ」と言っていただいて原本をいただいたわけですよ。

―それすごいですね。

隼:めっちゃ嬉しいですよ。それで、やろうと思ってたら倒れたんです。でも、入院してる時もなんとかしたいと思って、さくら姉さんに「僕の家のどこそこに亀甲組のコピーがあるから持ってきてくれへんか」ってまだ集中治療室にいた時にお願いしたんですよ。

さ:一回目の荷物にそれが入ってましたから。

―どんな体調…。

さ:まだ私との手紙のやり取りもおぼつかないのに。

―健康な時でもあの本を読むのは大変やと思いますよ。

隼:古い本やからてにをはもちょっと違うんです。句読点の打ち方も。

十月にもらって、二月くらいから連続読みをやるつもりだったんです。しっかりしてない頭でそう思ってたんです。しっかりしたら、それは無茶やなって気がついたんですけど。

さ:本の中であまりにも人が死んで気持ち悪くなったからやっぱりやめとくわって(笑)

隼:上中下のうちの、上中は数日で読んで、朱を入れたんですよ。そしたら、だいぶ具合悪くなってきて。人が死に過ぎてえげつないんですよ。浪曲って大体、原作を盛ってさらにえげつない話にするのに、原作の方がえげつくなくて、浪曲の方がちょっとマイルドだったんです。

―珍しいパターンですね。

隼:えげつない訳ですよ。そこで自分なりに修正する箇所を書き足していってたわけです。そしたら、「木辻の廓」の場面。亀甲組の親分の奥さんが廓に売られて、それを敵方の二引組の棟梁が買いに来て、奥さんが拒んで、ムチで打たれて殺されるのが浪曲の話なんです。でも、原作は二引組が廓に亀甲組を装って、奥さんを迎えに行って、二引組の小屋で猟奇殺人をするんですよ。めちゃくちゃエゲツない話なんですよ。もうそれを読んで具合悪なって。これやったら、もうお客さんも離れるなと思って。その場面はさすがにカットしました。

―話もえぐいし、そもそもその時の隼人さんは普通に具合悪いですからね。

隼:ペンもちゃんと持てない時ですよ(笑)。これしてたら、退院できへんと思って、一回やめたんです。

それから一年くらい過ぎて、来年は「亀甲組」をやっぱりやろうと思い始めて、読むと、病院で読んでた時よりマイルドなんですよ。で、皆さんが言う「木辻の廓」は山場ではあったんですけど、発端に近いところなんです。亀甲組の親分が途中で死んで、そこからは仇討ちの話なんで、そこにめちゃくちゃ面白い話もあるんですよ。ハメ外し過ぎて、きっと行友先生も怒られたんでしょうね。作品の感じも変わるんです。

さ:(連載やから)読者の声もあるやろしな。

―内容は行友先生の完全に創作ですか。

隼:日露戦争の時に作られた軍隊輸送のための物資を運ぶ鉄道で、国をあげての事業なんですけど、確かなことはわかんないですね。

さ:関西線は今でもあるしね。

―原作を読んで「亀甲組」の印象は変わりましたか。

隼:いちおう大団円…。大団円でもないんですけどね。ただ、ストーリーとしてはちゃんと切り場があったんで、自分の中では腑に落ちましたね。

―「木辻の廓」以外の聞きどころもありましたか。

隼:ありますね。個人的には「木辻の廓」の後に亀甲組の親分の死があって、これが一番の聞きどころじゃないかと。そこに忍者も出てくるんですよ。

さ:さすが伊賀やからか。

隼:幡随院長兵衛の死と同じ流れになってるんです。そこは行友先生も意識してるんでしょうね。

―パロディ的な意図があるのでしょうかね。亀甲組の全話を通してのストーリーはありますか。

隼:全体的にはどうやって二引を討つか。

―仇討ちの要素があるのですね。それは全体を通して聞かないと、想像できないですね。あと、副題が面白いですよね。ダイナマイトとか。

隼:ダイナマイトは話もめっちゃ面白いですよ。8話が岩五郎の最期。9話が初七日。10話が怪老爺(かいろうや)。

―怪老爺って何の話ですか(笑)。その副題も隼人さんが考えてるのですか。

隼:行友先生が書いてるのもあります。怪老爺も行友先生のセンス。あと、ダイナマイト。それと初七日も。

―行友先生のセンスも面白いですね。惹きつけるワードをポンと出してくる感じが。隼人さんがそこは生かしつつ、今の人に伝わるように脚色をしてどんな話になっているのか、この連続読みはすごく楽しみです。


2.2023年の目標

―では、次は2023年の目標について聞いていきます。ちなみに、去年の目標は覚えていますか。

隼:去年何て言ってましたっけ?

―「丁寧な暮らし」ですよ。

隼:そうでした。そういう路線を狙ってるって言いました。まずはそれを振り返りましょうか。

―丁寧な暮らしは実践できましたか。

隼:丁寧な暮らしをできなくなった境目は…五月の花詩歌タカラヅカですよ。

―そうなんですか。

隼:間違いなく…。その頃、かつてない程にめちゃくちゃ仕事忙しくて、個人的にお稽古の日を設けてもらったりしてたんです。わりといい役ということもあって、それはめっちゃ嬉しかったんですけど。

でも、丁寧な暮らしができてないと知ったのが、アイーダの舞台で皇帝にどつかれる時にギックリ腰になったんです。結局、花詩歌タカラヅカは朝まで続く打ち上げが楽しいんですよ。でも、その打ち上げに参加も許されず。

さ:私は行きたかったんやけど、私も帰るはめになって。

隼:ギックリ腰まではわりと丁寧な暮らしをしてるつもりやったんです。けど、無茶してることに気づいたんですよ。ツキイチ独演会もやって、ネタも都度変えてやってたら、実は全然丁寧な暮らしをできてないなって。八月にはコロナで倒れて、久しぶりに休んでホッとしたくらいなんです。

―花詩歌タカラヅカで怪我をしたことがきっかけで気がついたんですね。丁寧な暮らしはするつもりやったけど、気がついたらできてなかったと。

隼:もう体調も戻ってきて、周りも倒れたことを忘れてましたから。だから、年の前半は丁寧な暮らしを心がけたけど、それができず、後半はけっこうデカい仕事をいただいたのが一年の振り返りですね。不完全ではありますけど、浪曲を一生懸命やるしかないなというのと。咲くやこの花賞をいただき、東京のツキイチ独演会、百年長屋から高津さんの浪曲研究会と激動の一年でもありましたね。

さ:復帰の年とは思われへんね。

隼:心配されながら、がむしゃらにやりました。

―年が始まった時には想像もしてなかったことになりましたね。まさか、2021年より仕事の量も質も上がるとは。

さ:私は365日千鳥亭で、もはや術後ではないっていう感じかな。10日間連続は私でもしんどかったですから。

隼:落語や講談の方、お客さんも助けられてました。

そして、これからの一年は「掘り起こし」です。これまでにない浪曲の話をしていきます。台本コンクールで生まれた台本を浪曲の手法を使って、やるのもその一つです。

さ:私は隼人くんといっしょにやり始めた時に、隼人くんに「若くして入った分あなたには時間があるから、浪曲のイロハみたいなのを覚えて研究して、その先に表現ができるようにしいや」って言ったのを覚えてますね。

―浪曲の素地を身体に沁み込ませる期間を大切にしてきましたよね。その上にこれから表現が生まれていくと。

隼:だから、二十代をこんなに有意義に過ごした浪曲師っていないと思うんです。若くして業界に入った人の中には潰れていく人もいるわけですよ。そんな中で美空ひばりさんです。リンゴ追分からの真っ赤な太陽、柔でバッと昇っていく。時代の流れを掴んでいった美空ひばり。そんな感じでぼくも浪曲でいっきにいく。挫折は今のところしてない。負けそうになる時はいっぱいありますけど、周りの人に助けられてやれてます。

だから、今僕は最高の二十代にするためのラストスパートなんです。

さ:もう十分やってるけど。

隼:ぼくはラストスパートとして、若気の至りという二十代を満喫したいわけですよ。今までにない浪曲を作る。これは二人の目標です。

もう一個の目標はもうちょっと浪曲の資料を集める。今話を聞ける人がいるうちに、そういうこともやっていきたいですね。

―ありがとうございます。20代の真山隼人ももう残り数年。そこでどんな浪曲を聞かせてくれるのか楽しみにしています。

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