真山隼人 テーマ「縁」(2024年3月通信より)

―今日のテーマは縁です。このテーマを選んだのは、隼人さん、さくらさんの活動範囲がここ数年で全国に広がっていて、その背景を知りたいと思ったからです。テレビに出て、全国各地から呼ばれる人は多いと思いますが、隼人さんの場合はどうでしょうか。

隼:人の縁ですね。正直、大阪だけに留まってやるのも嫌になったんですよ。もっと幅広く活動できへんかと思っている時に始まったのが、ツキイチ独演会です。やってみると、「(東京に来てるなら)ちょっと足伸ばして水戸まで来てくれへん」とか、そんな風に仕事をいただけるようになりました。また、人形劇とか、これまでに出会ってきた人が仕事をくださるようになって、口コミで広がってますよね。そうなったことで、ここ二、三年は関西の真山隼人でも、東京の真山隼人でもない、単体の真山隼人という人間が浪曲をやっているという図になっていったかなと思います。

―そうですよね。隼人さんを見る人は大阪の浪曲を見たいのではなく、真山隼人、沢村さくらを見たいと思っていると思います。活動範囲が広がっている背景にはやはり人の縁があるのですね。

隼:ぼくは三味線でやり始めた時に重要だと思ったことがネタを増やすこと。これは一番重要なことだと今も思ってるんですけどね。もう一つは、色んな人と付き合うこと。浪曲界だけじゃなく、本当に色んな人と付き合い、つるむ。元々話聞くのも好きですし、浪曲は自由な芸やから、色んな人の色んなやり方を見て、見るもの聞くもの全てが師匠ですよ。その思いで今日までやってます。

―三味線の浪曲を始めた頃から活動の幅も広がっていった気がします。出演する会のバリエーションが増えたといいますか。

隼:弟子に入った時はまだ子どもやったんで、二十歳過ぎてから色んな人と付き合い始めて、まずは落語、講談、古典芸能の方、そしたら人形劇の人らとも出会って。それでツキイチ独演会も始めて、東京の方とも出会って。そうやっていくうちに、浪曲の世界やとある種、固定されている部分もありますけど、外に出て開拓できたと思います。そうしていかないと今後狭くなるんちゃうかという恐怖もあって。

―活動の範囲を土地レベルで広げようとしていたわけではなく、色んな人と幅広く付き合った結果として、全国規模で活動するようになっていた。

隼:そうです。色んな人と繋がって話をして、それが自分の芸の鍛錬のためやと思ってました。それがここ二、三年広がっていって、人形劇や附けの山崎徹さん、落語の先輩方や東京で知ってくれた方や、今ある全ての人の縁で広がってきたと思いますよ。

―隼人さんのスケジュールを見ると、誰かに呼ばれて行く会が多いですもんね。ご自身で定期的にやっている会は高津さんとツキイチで月二回だけで、月に数日しか休みがないのでは。

隼:あと、寄席の存在も大きいですね。ハルカス寄席と水曜千鳥亭と。そこから阪急交通社や、門戸寄席にも繋がってますし。

―寄席に出て、そこでまた新しいお客さんとも繋がっているわけですね。

隼:それから、花岡さんとも奈々福姉さんの会の縁があって。今月で言うたら、清水宏さんですよ。たまたま飲みに行ったら、(清水さんが)いたから。次は4月に呼んでくれてて。あの人はすごいバイタリティですよ。

―5月のツキイチのゲストが清水さんでしたよね。飲み屋の出会いから数カ月で、4回も互いの会に呼び合うって、なかなかない関係やと思います。出会った人との付き合いも長いですよね。単発で終わらず継続している。

隼:そうですね。呼ばれた会では、また次呼んで下さいって言うのもええんかもしれないですね。「またお願いします!」っていう。

―それが次に呼ばれる秘訣ですか。

隼:かもしれないですね。これ企業秘密やから(笑)

―それはみんな言うてると思いますよ(笑)。継続して呼ばれてるのは、きっとお客さんや主催者が満足しているからでしょう。

隼:そうですね。縁の話に戻すと、周りの人に出会えたことと、いい外題に出会えたことも大きいですね。

―なるほど。

隼:鯛もそうです。勧進帳もそう。西村権四郎とか応挙や、ビデオ屋の暖簾もそうですけど。やってる外題のおかげで今がある。

そして、いい三味線の人がいる。ぼくら二人で行くから、仕事が多くなる。これが一番ですよ。それに周りのバックアップがある。

来月で言ったら、海雲寺の公演。これは伊勢さんの繋がりです。

―隼人さんの仕事を聞いていると、それぞれの仕事先に名前と顔がセットでありますね。

隼:それは個人事務所やからというのもあるでしょうね。

―それも一つあると思いますが、仕事先との信頼関係も感じます。しかも、それが全国規模ですから。全国各地に信頼関係があるのはすごいです。

隼:クラルテさまさまですよね。それと附けの山崎さんと。今度は長崎にも行きますからね。

―長崎ですか。リアルに口コミで広がってますね。

隼:それから、ツキイチを始めて、知ってもらえることも増えましたね。

―以前から浪曲ファンの間では隼人さんは知られた存在だったと思いますが、それでも変化はありましたか。

隼:運が良かったのが、そのタイミングで花形を貰えたことです。あれは大きかったですよ。花形でもチラシ巻きますから。それでツキイチのリピーターになってくれた人もようさんいてます。そういう新たなお客さんに出会えた。

言うても、自分の会だけをグルグル回してたら、お客さんは減っていきますよ。毎月やるんですもん。そうならないためには、別の会に出て行ってチラシを巻く。これができるのが良いんですよ。そこで見た人が「こんなヤツおるんやったら、ちょっと見に行ったろかと」そうなるわけです。

―なるほど。演者や主催者だけでなく、お客さんとの新たな出会いも意識的に作られているし、その機会でしっかり爪痕を残そうとしている。

昔の浪曲師の興行スタイルとして、巡業がありましたが、当時の巡業の記録などで、今の隼人さんが参考にしていることはありますか。

隼:やっぱり外題の選定ですね。どの舞台も常識かもしれないですけど。前席が軽いの、後半が重いの、またその逆か。

それと、鶯童先生の浪曲旅芸人という本。あれは名著ですよ。えげつないところまで書いてますからね。昔の人がこんな大変なことやってるんやったら、今の我々はマシな方やと思いますよね。うまくいかないことがあっても、各地に巡業してることを思えば、そういう時もあるだろうと思えますし。

―各地に行くと、大阪のような慣れた土地と違って、何人お客さんが来るか分からないとか、やるまで分からない事がありますよね。

隼:ありますね。ぼくらは主催者に呼ばれて、乗り込んで行く訳ですから。主催者さんがどれだけ集めてるかですが、こないだ行った町田でも、300人入るホールが2/3は埋まってましたよ。

それは町田の人がお客さんを持ってるからです。そんな風にお客さんをちゃんと呼んでくれて、そこに自分たちはツキイチのチラシもまいて。本当に草の根の活動ですよ。

―浪曲を初めて聞く人、隼人さんを初めて観る人の前で浪曲をする機会も増えてますか。

隼:増えてますね。

―そこで意識してることはありますか。ネタ選びとか。

隼:分かりやすいのと。まず浪曲を知ってもらうこと。演芸演芸せず。いち真山隼人と沢村さくらが来た。そんな感じで「どーもっ!」って行くという。

―企業秘密かもしれないですが、隼人さんなり初見のお客さんをつかむ秘訣はありますか。

隼:なんでしょう。それは考えたことないですね。繁昌亭の昼席で言うような、何を話すかの台本はあります。自己紹介やったり、浪曲の紹介やったり。

―この後、各地に二回目、三回目と回って行くことになるかと思いますが、そうなると意識することも変わりますか。

隼:一回で終わるところもあれば、今すでに二回呼んでくれてるところもあります。その時は、「前に来てくれた人いますか」とかで対話したりはします。初めての人と、二回目の人と入り混じってるんで、微妙なラインでどこまで攻めたことを言えるか探りながら。土地によって、このネタはハマるけど、このネタはハマらんというのが案外あったりするんですよ。例えば、吉良町で忠臣蔵やっちゃダメのような。そこまで極端ではなくても、ここでは忠臣蔵がウケる、でも別の所では鯛の方がウケるとか。これはひかえてます。

―何がウケるかをちゃんと記録してるんですか。

隼:記録してます。ここでは、こういうが好みやったとか。それは地方に限らず、関西の地域寄席とかでもそうです。どこの会でも、会ごとのお客さんがいて、何がウケるかって覚えてます。

―私はてっきりマクラでお客さんの様子を見て、それだけを参考にネタを選んでると思ってました。それだけ記録と分析をしているとは想像してなかったです。

隼:案外ハズレないのが徂徠豆腐やったり。言葉のニュアンスの問題で、関西訛りがアカンところもありますし。微妙なところですよ。それがこちらも勉強なんで、掴みそこねることもあります。だから、何がウケるは微妙なラインを攻めながらみてます。あとは、主催者さんに相談したりもします。

―すると、その土地に行く回数が増えるほどにやりやすくなっていくのでしょうか。

隼:やりやすくなっていきます。

―毎年隼人さん、さくらさんが来るのを楽しみにする。数年後にはこんなことが各地で起こりそうですね。

隼:まぁ、でも、本当に今まで関わって下さった皆さんのおかげだと思っています。これは感謝してますよ。今、呑気にこうやってできてるんですもん。

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