京山幸太 独演会・これからの活動(2024年4月号より)

目次

1.6月30日独演会

2.これからの活動から浪曲界の話に


1.6月30日独演会

―6月30日に「京山幸太 筋断の浪曲独演会」が予定されています。初めて楽屋Aでの浪曲会でちょっと変わった演出もあると聞いています。まずは、どんな構成になるのか教えてください。

幸:浪曲が3本で、「三条凡児」が二席と今回のために書き下ろした超新作浪曲のボディビル浪曲です。

―ボディビル浪曲というジャンルですか。

幸:ボディビル浪曲ですかね。タイトルは「甲斐みどりの恋」って言うんですけど。女子高生が主人公です。

―ボディビルダーと女子高生。珍しい組み合わせですね。

幸:そこに師匠が出てきたり、男の人が出てきたり、色々あるんです。

―これまで超新作は何本公開してきましたっけ。

幸:「ギャルサー」と「難波の帝王」と、すぐボツにしましたけど「ハイジ」もしましたね。

―「ハイジ」も超新作浪曲でしたか。

幸:いや、もうあれは入れてないです(笑)

―(笑)

幸:なかったことに。攻めた結果、失敗もありました(笑)

―「黒船来航」もありませんでしたか。

幸:あれはそんなに演出を入れてなかったので、違いますね。

―なるほど。過去の演出というと、「ギャルサー」はパラパラを踊ったり、「難波の帝王」はパネルを持ったり。

幸:「パンク侍」の前編もそういう意味では、超新作の要素はあるかもしれないですね。

―今回も演出があるわけですか。

幸:当然、演出はあります。会場の楽屋Aにはちゃんと音響のスタッフさんもいますし、照明も使えるし、自由にできるかと思っています。

―演出の凝り方としては過去の演出と比べてどうでしょうか。

幸:ギャルサー以来の良い演出ができると思っています。今回の演出をするに当たって、事務的な条件もクリアしまして。

―事務的な処理もするとは余程やりたい演出があったのですね。新しいモノが見られそうです。どういう層に刺さることをイメージされていますか。

幸:もちろん浪曲ファンの層と、MCとコントのゲストでダンス・ダンス・ダンスさんに来てもらうし、楽屋Aでやることもあって、お笑いファンからも来てほしいです。筋肉からも来てほしいです。

―筋肉層も来てほしいですよね。

幸:筋肉からはあんまりこないと思います。

―そうなんですか。筋肉方面にはアピールしてないのですか。

幸:ジムの方と話はしてるんですけど。まだ決まってなくて。

―なるほど、筋肉方面でも話題になると良いですね。


2.これからの活動から浪曲界の話へ

幸:それと、5月からYouTubeをちゃんとやろうと思います。

―前回もそんな話をされてましたね。どういった思いでしたっけ。

幸:お笑いの舞台だけで売れようとするのもギャンブル過ぎると思っていて、幅広くやろうと思って。毎週新作あげようと思っていたんですが、それはさすがにヤバくて。月に2,3本の新作浪曲をあげたいと思っています。

―世界のボディビルダー史をコンプリートしてほしいですね。

幸:ボディビルダーもやりたいと思っています。ネタとか尺もお客さんの反応見ながら調整するつもりで。最近読書もできてなかったんですけど、読書したものをYouTubeにあげていくのもありやと思ってますし。

―なるほど。今のところテーマは定めずに、やりながら、適当な形が見つかりそうですね。

幸:そうです。少し話は変わりますが、最近、自分の活動全体も含めて、結局好きなことやらなアカンと思うんです。自分がやりたいことというか。だから、自分がやりたいネタを増やしていこうと思います。

―それは良いことですよね。実際、先日の一心寺で私は幸太さんの「小田原相撲」を聞いて、良いんですけど、もっと幸太さんに合うネタはあると思いました。

幸:あの時は他の演者さんとのバランスで、明るめのを選びましたけど。自分に合うネタという意味では他にあったかもしれないですね。

―師匠から貰うネタはだいぶストックされてきて、その過程で修行も積まれてきたんで、そこから幸太さんにしかないジャンルがみたいです。

幸:自分が甚五郎をやるのも違うというか、やるにしても自分なりに変えないとできないやろし。やってて、自分が楽しいと思えるネタを増やしたい気持ちが大きいです。

―それはYouTubeで定期的に新作を書いていくことで、また生まれるかもしれませんね。

幸:たしかに。歴史だけじゃなく色んなジャンルやっていくつもりですし。「天下一品」についても書こうと思ってて。

―えっ。ラーメンの。

幸:そうです。本も買いました。好きな物を考えた時に、自分自身でもあるんですけど、ラーメンも好きで。

―ラーメン誕生物語の新境地が生まれるかもしれませんね。朝ドラでもそんなのありましたよ。

幸:今年は書く年になりそうです。毎年そうなってる気がするんですけど。書かなしゃあないです。

―まだギリギリ二十代ですし。

幸:そうです。若手ですから。何がやりたいかなぁ。いっしょにやるのも三味線以外もあるかもしれないですし。ギターとかとありますし、あえてこだわらなくても。三味線の良さはもちろんあるんですけど。

―そうですね。三味線は数々の人を経て磨かれてる部分がありますからね。技術も伝承されているからその一代では築けない技と言いますか。

幸:旋律に合いますからね。

―それを知った上で、他の楽器を研究したら、見つけられるかもしれないですが、それに向かう気力を持つ人が現れるかですね。

幸:今は、ギターシンセとか技術が発展してるから、それも生かせば、場面ごとに音を使ったり、これまでにないことはできそうですけどね。

―それは見たいですね。

幸:ギタリストが気づいてくれへんかな。

町田さんが言ってたことが、頭に残っていて、「正式なルートではなく有象無象の中から新しい物が生まれるかも」というのが。

―そうですよね。浪曲の技術や経験をベースにしながら、他のジャンルとの組み合わせだったり、既存の浪曲を塗り替えるようなことは、今後のために大事だと思います。

幸:そんな意味では三味線以外がきても良いかもしれないですよね。

―そうですね。これは持論ですが、浪曲をベースに新しいことに挑戦した人を浪曲師を名乗り続けられるか、再びいわゆる一般的な浪曲をできるか。それができる浪曲界の空気感も大事だと思っています。新しいことをした人が浪曲界の離れものにならないといいますか。

幸:浪曲でいま食べていけるのは、よくも悪くも伝統芸能的な立ち位置があるからだと思うんです。そこに新しい要素を入れると対象から外れてしまう可能性もありますもんね。

―たしかにそうですね。だから、新ジャンルを含めない力が働くのは納得です。

幸:本当に売れないと食べていけない世界。それが芸であり、音楽だと思うんですけどね。最近、落語家さんが言ってたのが、古典芸能化してしまうと発展は鈍るけど、古典芸能にならないと滅びてしまうこともあると。衰退してるものは古典芸能になるか、滅びるかしかないと言ってました。

―理屈は通ってるけど、めっちゃ消極的な判断じゃないですか(笑)

幸:そうじゃないなら、大衆に根ざして、人気を獲得することを目指すか。お笑いとか音楽の世界がまさにそうですもんね。浪曲はその間にある気もしてます。

―浪曲が伝統芸能かと言われると、微妙なところですからね。落語や講談に比べると歴史は浅いですから。

幸:伝統とはの話になってしまいますが。どこかの哲学者が、伝統を重んじることは、現代の民主主義に死者を参加させることだと言ってて。

―どういうことですか。

幸:今の人の考えだけで、新しいことを作っていくだけでなく、先人の考えも重んじて、物事を決めていくのが伝統やと。

―なるほど。

幸:一方で、岡本太郎が最近の伝統はアメリカ的に対するアンチテーゼでしかなく、うんざりしていて、当時の岡本太郎自身がやっていることこそ伝統やと。なぜなら、自分の作品は自分がゼロから作ったものではなく先人から文脈にのっているからだと、言ったのも聞いたことがあって。あやふやな記憶なんですが。どっちの話も理解できて。

―どちらの話も伝統との向き合い方は同じかもしれないと思いました。岡本太郎はアウトプットの仕方を批判してる気もして。

幸:たしかに。そういう話をしていて、今後浪曲がどうなっていくんやろうと思います。変わらざる得ないこともあるだろうし。そこから発明が生まれることもあるでしょうし。変化をしていかないといけないと思います。

―そうだと思います。現代の浪曲も、桃中軒雲右衛門のままでネタもやり方も続けてないですし。さすがに令和に桃中軒雲右衛門は大衆性ないですから。そこを向き合いながらも、出し方は変わっていくものかと。

幸:初代幸枝若師匠なんかめちゃくちゃ変えてますもんね。その時代の四天王の人たちを中心に浪曲を変えて、人気を獲得してくれましたけど、少しずつ時代も変わってきて、今改めて変える時なんでしょうね。だから、新作も出てきてるし、全体的に必要になってるんだろうと。

自分は結局ウケるものを作りたいのと、自分が好きなものを出していきたいです。そしたら、単純に若い人にだけ向けたものでもなくなってきます。

―若い人にだけ向けてると、幸太さんもしんどいんじゃないですか。ご自身の感覚とのズレもあるでしょうし。

幸:自分も歳とっていきますし。せめて同世代。それかもうちょっと上くらいの方が合ってる気がするんです。四十代くらいがいいかと。

お笑いだとウケるからやるけど、自分自身がやりたいことと違う時もあって。正直、お笑いについては自分自身がそんなに向いてないと思うんですよ。ただ、どうすればウケるか学習はするんで、成長できましたけど、向き不向きでいうと、向いてはないです。たぶん、浪曲の方が向いてると思います。長めの尺で、笑いだけに特化せず、インタレスティングな面白さもあるというか。そう思うと、自分の向いてるところがお笑い以外にあるのかと思います。

―それも経験を経て知ることですから。しかも、二十代のうちにそれが実感できたのは収穫ですね。

幸:それもあって、お笑いをダラダラするべきじゃないと思うんです。実は十代の時もそんなことを経験してる気がして、ずっと音楽をやってきて、最終的に浪曲にいったのは自分的には繋がってんですけど、はたから見たら音楽に挫折したと思う人もいるんですよ。でも、自分の中では理屈があって。ちゃんと進んでるんで、だからあんまり周りの目を気にして一つのことにこだわり過ぎたらアカンなと思いました。変なプライドを持たずに、自分がやりたいことに挑戦して向いてるものを見つける。

―そうですね。自分で決めてるから、納得もあるし、経験から学びもあるでしょう。次に生かされていくと思います。それが若い時にできているのもよかったと思います。

幸:プロとして努力は当然するものなので、だからこそ向き不向きも大事だと思うんです。好きで努力できることと向いてるが重なった時に強いでしょうし。それを見つけたいですね。

―そういう意味で浪曲は色んな要素がありますから。声、節、啖呵はもちろん、所作やネタ選び、創作力など、幸太さんの得意なところを磨いて最終的にトータルで輝くことを期待しています。

幸:はい。向いてることを見つけたいと思います。

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