真山隼人 2018年を振り返る 2019年1月号より
昨年、大阪で初めての独演会を開催し、文化庁芸術祭の新人賞も受賞した真山隼人。彼が2018年を振り返ります。順風満帆に見えた一年でしたが、その裏に隠された意外な一面や、今年の目標も語ってくださいました。
目次
1.2018年振り返り
2.2019年の野望
3.連続読み「観音丹次」を終えて
4.立川笑二との共演について
1.2018年振り返り
―2018年の振り返りから始めたいと思いますが、昨年はどのような年でしたか。
隼:ちょっとうつ病になりまして。4月くらいから始まって9月くらいまで、無気力で風呂も入りたくない、着替えたくない、そんな日々でした。仕事も全てを置いて逃げようと思いましたが、一緒にやってきているさくら姉さんがいてるからこそ思い止まれました。テキトーにやってきてたら、ホンマに逃げてましたね。
―そんな状態でしたか。びっくりです。7月の十三浪曲をやった時もそういう状態でしたか。
隼:精神的には全然ダメです。
―全然気がつきませんでした。原因は何だったのでしょう。
隼:いっぱいありまして、一昨年が良い年で終わったんで年末に脱力してしまいまして、それが正月に戻らなかったんですよ。それで気がついたら2月になってて、そこから失敗もいっぱいするし、人から責められたりもいっぱいしたんですよ。嫌な事が仕事に行く度にあって、そしたらストレスが原因で救急車で運ばれました。それから帰ってきてから、記憶力がなくなるわ、新しいネタ覚えられなくなるわ。未だに記憶力はちょっとおかしいんですよ。前みたいにネタを「覚えた!」ってならないし、言葉もポッと出てこない。そのおかげでちょっと考えるようになったんですけど。
―舞台ではそのような様子は感じられませんでした。
隼:それは絶対に見せないようにしてました。
―舞台を休む事もなかったですしね。裏でそんなに苦しい思いをされていたのですね。
隼:それこそ、さくら姉さんかわいそうでした。一緒にいても、幻覚見えてるし。
―幻覚が見えるって相当ですね。治療はせず、今は治ったんですか。
隼:そうですね。ただ、油断すると落ちると思うんで、気いつけようって自分でコントロールしてますね。あの時期は浪曲が大嫌いになりました。それでも、「浪曲嫌いや」って言いながら中村冨士夫聴いてるんですよ(笑)
―それが年の後半から変わってきましたか。
隼:ぼくは「ここを境に変わった」という時期があるんですよ。それが9月の十三浪曲と浪曲大喜利。あの2回でピタッと収まって「あっ行ける」ってなりました。あの時は「あぁ良かった」って思いましたね。浪曲が嫌になりながら、浪曲に救われてるんです。自分でもよくわかりません。
―すると、最終的には良い年になったとまとめてもいいでしょうか。
隼:(良い年に)なりましたね。振り返ってみると、舞台の数も今までで1番多いですし。身の丈にあってない人と会って、付き合いが増えた。それが嬉しいですね。憧れやった鶴澤寛太郎さん(文楽三味線)や茂山千之丞さん(狂言師)にも会えましたし。
―そして、文化庁芸術祭の新人賞も受賞されました。おめでとうございます。
隼:本当にまさかいただけると思ってなかったので、びっくりしました。
―前回の太福さんに続いて浪曲が2年連続受賞。さらに今回は浪曲が東西でダブル受賞です。浪曲の幕開け感もありますね。
隼:この3人がまず貰えて良かったなぁと思います。年は違いますけど同時期に若手と言われた3人ともが受賞できたというのが嬉しい事ですね。受賞の電話がかかってきたのが12月14日やったんです。そこから発表まで誰にも言うたらアカンくて、口の軽いぼくが黙ってるのがしんどかったですね。お客さんや師匠方も結果を聞いてくださるんですけど、誤魔化してたら、中には「また来年もあるよ」って励ましてくれる人もいてたりしてて。心の中で「びっくりするぞぉ」って思ってました…。結果的に、受賞で自信はつきましたね。ちゃんとやったら、見ててくださる人もいてはるんやと。
―今回の受賞は芸祭では最年少ではないですか?
隼:歌舞伎とか舞踊も合わせても最年少なんですよ。今年、テレビ・ドラマ部門で23歳の俳優さん(志尊淳)が取ったんですけど、その人が平成7年3月5日生まれなんですよ。ぼく平成7年3月10日生まれなんで、ギリギリ最年少(笑)。
―昨年の出来事として、12月の一心寺で久々に歌謡浪曲を口演されていましたね。
隼:そうそう、あれが評判良かったんですよ。案外!
―ツイッターでも盛り上がってましたね。
隼:「歌謡浪曲は嫌いやねん」って言うてた人が。「面白かった」「楽しかった」って言うてくれて。
―今年また歌謡浪曲はやっていく予定ですか。
隼:(さくら姉さんが)空いてない時はやっても面白いかなと思ってて、趣向も考えてます。
―歌謡浪曲もやはりやっていきたいですか。
隼:気持ちは三味線の方が強いですけどね。
2.2019年の野望
―2019年をどのような年にしたいという展望はありますか?
隼:ありますね。賞をいただいて、ツイッターとかも流れが変わりました。何書いても、朝起きたら30件の反応があるみたいな。今までこんなんなかったんですよ。注目していただいてるんやなと思ってます。先日、奈々福姉さんと電話した時も「もっと会をやりなさい。お客さんが入る入らない別にして、どんどん会をやりなさい。そしてお客さんの心を掴むのよ。」と言われまして。
―なるほど、では今年は舞台を増やす事がテーマの1つですか。
隼:舞台を増やす事が1つで、そして色んな企画の会をやる。それを頑張ります。浪曲でこんな事もできますよっていうのを見せていきたいですね。
あと目標としてはシブラクに出たい。
―おぉ!それ、書いてもいいですか?
隼:いいですよ。実は何年か前からすごく出たいと思っていました。時期としては「ビデオ屋の暖簾」出来た頃、浪曲ファンではない新たな落語世代にあれがどう受け止められるのか知りたい、そういう気持ちがありました。とにかく今年はシブラクに出たいですね。
―絶対出たい方が良いです。東京でも認められて、より遠い存在になりそうですが。
隼:いやいや、根本的には大阪は出ないですよ。
―シブラクに来てる客層に見てもらって、「真山隼人が面白い」って言われたいですね。そこから、さらに飛躍していきそうです。
3.連続読み「観音丹次」を終えて
―2018年は毎月の連続読み「観音丹次」に挑戦し、自ら台本も書き起こされました。大変な作業だったと思いますが、振り返っていかがでしょうか。
隼:あれはキツかった。鬱になった原因もそれがあるかもしれないですね。未だに、夢で締切に追われてうなされる時がありますしね。
―やって良かった面はどういった部分でしょうか。
隼:勉強になりました。浪曲がどう構成されていくかとか、どこで切るかとか、浪曲1席作る勉強にはなりましたね。今後まとめて全部やりたいですけど、せっかく毎月来て下さった方がいらっしゃるのに早速まとめてやるのはちょっと失礼かなと思ってます。なので、今年はやらずに、来年辺りにまとめて4日間くらいでやろうかな。
―抜読みもしないつもりですか。
隼:長過ぎてできないですね。たぶん観音丹次をやるのはたぶんまとめてしかやらないですね。それにしても、終わった時はホッとしましたね。観音丹次10作は大変でしんどかった。
―その甲斐あって、浪曲史に残る物ができたのではないでしょうか。
隼:誰もやってなかったというのが面白いですよね。福太郎・太福の「青龍刀権次」、浦太郎一家の「野狐三次」、京山家の「会津の小鉄」とそれぞれに連続物があります。ぼくにはぼくの観音丹次を作る事ができました。後は綺麗に書き起こすだけです。
―今年はそれに代わる連続読みは考えているのですか。
隼:もうちょっと体力がキツいんで、今年は休みます。ネタ卸しもせんとこうと思ったんですけど、柳田格之進やったり、英国密航やったり、既にネタ卸しが決まってます。
―そうですよね。今年はネタ卸しはセーブすると聞いてましたが、年が明けると既に予定が…。この勢いでいくと、今年も去年くらいの数になりそうな気がします。
隼:一昨年が24席、去年が27席で、もうこれ以上増やさへんって言うてるんですけど、たぶん増えるでしょうね。
―ネタ卸しは今後も続いていきそうですね。
隼:今年はネタ卸しにも目標があって、お話的に楽しい物・面白い物を心掛けてやろうかなと思っています。例えば4月30日に開催する「アデュー平成」に向けても「宮さまの銀ブラ」という作品を書いています。
―会自体も「宮さまの銀ブラ」もめちゃくちゃ面白そうですね。とても楽しみです。
4.立川笑二との共演について
―十三浪曲寄席1月のゲストは立川笑二さんです。隼人さんは落語にも関心が高いですが、江戸落語への思い入れなどはありますか?
隼:ぼくは円生ファンで中二の時には円生百席も購入しました。202580円は今でも忘れらない数字です。そしたら、YouTubeに円生百席を全部上げたやつがいたんですよ。その時はもう殺意が沸きましたね。俺の青春を返せって(笑)。ぼくは上方落語も味があって好きなんですけど、関東のも好きです。立川流の中で談笑師匠ってちょっと変わった視点から落語を見てはる。笑二さんは、その談笑さんのお弟子さんで、同じようにまた変わった視点から、自分なりに古典を解釈してやってるという印象があります。落語を昔のままやるでもなく、おちゃらけでもない、解釈を大事に笑二はしてるのかなぁとぼくは思いました。
―話をしっかり聞かせて笑いもあるイメージがありますね。その笑いも無理矢理ではなく、話の流れで自然に入ってくる。
隼:そうですね。今回の十三浪曲寄席は自分と同じ世代でシブラクにも出演している笑二さんが、どういう風な感じで落語をやるのか、どんな風に落語と向き合っているのか、それを見るのが楽しみです。そして、自分もネタを決めるが楽しみです。
―ありがとうございます。私もお2人の共演を楽しみにしております。
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