コラム「真山隼人 入門9年目 初の大阪独演会へ」2018年9月号より
奇数月レギュラーの真山隼人は現在23歳。同学年は社会人2年目を迎える年であるが、中学卒業と同時に入門した彼は今年で芸歴9年目になる。10代半ばから芸能界に身を置き、芸を磨いてきた彼だが、その裏には様々な決断や挑戦があった。今回はそんな彼の決断や挑戦を紹介する。
「三味線浪曲へ」
彼が中学を卒業して入門した二代目真山一郎門下はオーケストラの音源に合わせて口演する歌謡浪曲を専門としていた。しかし、三味線との掛け合いという浪曲の基本へ立ち返りたいという強い気持ちから、平成27年に真山誠太郎門下に身を移し、翌年からは三味線浪曲にも挑戦を始めた。歌謡浪曲と三味線浪曲は言葉だけで捉えると似ているかもしれない。しかし実際には、大きく違う。譜面がなく、浪曲師と曲師の掛け合いや間が重要になる三味線浪曲は、音源に合わせる歌謡浪曲とは違う難しさがあるのだ。また、演目も異なっている。歌謡浪曲はその特性を生かした構成で演目が作られているため、三味線浪曲にそのまま移行するという事が基本的にできない。そのため、真山隼人は三味線浪曲の持ちネタはほぼゼロとして挑戦が始まったのである。
「衝撃の新作浪曲」
三味線浪曲の持ちネタはほぼゼロから始まった彼だが、平成28年2月に三味線浪曲デビューをする。演目は「大石東下り」。大師匠である先代・真山一郎の貴重な三味線での浪曲音源を参考にしたものだった。その2カ月後、真山隼人の浪曲人生に大きな影響を与える新作浪曲を自ら創作し、発表する。それが「ビデオ屋の暖簾」だ。主人公は真山隼人の実際の友人をモデルにした高校生2人。その高校生がビデオ屋のアダルトコーナーにいかにして入るかを画策するという、今までにない斬新な設定の浪曲。思春期の男子の心情を描きながらも、浪曲ファンのツボを見事に押さえた内容で初披露の舞台で大爆笑を誘った。その後、「ビデオ屋の暖簾」は真山隼人が繁昌亭昼席に出演する時の鉄板ネタにもなり、TV番組でもショートバージョンを披露するなど、その後の可能性を大きく広げる演目となっていった。
「今後の挑戦」
今年の3月から長編浪曲「観音丹次」の連続公演を始めた。「観音丹次」は長く口演されていなかった浪曲で、真山隼人自ら資料を参考に浪曲を練り上げ、公演を行っている。さらに11月には現在の集大成ともいえる「真山隼人独演会」を控えている。演目は3つのテーマにそってそれぞれ思い入れのあるものを選んだ。1つ目は創作がテーマの「ビデオ屋の暖簾」。2つ目は発掘がテーマの「善悪双葉の松」3つ目は継承がテーマの「円山応挙の幽霊図」。
「善悪双葉の松」は大師匠である初代真山一郎が20代の頃に手掛けた作品。この作品は長らく口演されていなかったが、今年真山隼人が東京の大学に足を運び、資料庫から戦後GHQに提出された台本を発見。その台本を基に蘇らせた作品だ。
「円山応挙の幽霊図」は現在も上方浪曲界を牽引する浪曲師・松浦四郎若師匠から受け継いだ演目である。かつて四郎若師匠のこの口演を見て非常に大きな感動を受け、三味線浪曲へ憧れを持つなったきっかけとなった。その後、三味線浪曲を始め、四郎若師匠に口演する許可をお願いし、演目を受け継いでいる。浪曲師にとってネタを譲る事は簡単ではないが、それを認めてくれた四郎若師匠への感謝もあり、節目の公演では常にかけてきた。大きな節目として迎えるこの公演は今後の彼の挑戦・成長を見ていくためにも必見である。
「講談について」
今回のゲスト・旭堂南湖先生にちなんで、講談との関りを聞いてみた。
普段、講談を見たり聴いたりするかという問いに対しては「趣味も兼ねた勉強で速記本をよく読みます。」という彼らしい答え。浪曲には抜き読み部分しか残っていない話でも全編わかって楽しいという。ただ、本が年代物のためボロボロで腹が立つ事も。いつか、この趣味を生かした浪曲が聴ける事も期待したい。
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