「会津の小鉄」スタート!そしてパンク侍を控えて 2022年4月号より

目次

1.「会津の小鉄」連続読み一回目を終えて

2.町田康×浪曲Ⅱを控えて

3.売れるまでの道のりは続く


1.「会津の小鉄」連続読み一回目を終えて

―「飯安殺し」は本公演のために覚えていただきましたが、苦労した部分はありましたか。

幸:先代が残したレコードはたぶん台本を見ながら、その場で節付けて吹き込んでるので、敢えてあんまりレコードは聞かないようにしたんです。聞くとレコードの節が耳に残ってしまうんで。これは自分の前週に「飯安殺し」をネタおろしした師匠もそうしたって言ってました。

だから、自分で台本まとめて、それに節をつけていきました。実は最近の自分の課題として、節が間違ってないけど、酔わす節じゃなくて、取ってつけたような節なってしまってるというのがあって。もっといい節を付けれるようになることを意識して自分で節付けをやってみて、そしたら途中の節とか師匠とほとんど同じ節付けやったんですよ。

―おぉ。

幸:もちろん細部は違いますよ。自分の方が憂いのフレーズが多くて、師匠はもう少しさっぱりしてるとか違いはあります。けど、「やっぱりそこはそういくよな」って納得できることも多くて嬉しかったですね。

自分で節付けする時も師匠ならどうするかって考えた上で、自分はどうするか考えるので。これができてくると、新作でもいい節付けができそうです。

―なるほど。小鉄は完成しきってる演題がほとんどなので、手を入れられる余地のある「飯安殺し」だからこその発見でもありますね。

幸:そうなんですよ。先代や師匠のお手本が出来上がってると、その通りにやってしまうので。これまでは、それでいいと思うんですけど、ちょっとずつ自分でいい節を付けていかなアカンと思ってるので。

―すると、今回は偶然にも師匠とほぼ同じタイミングでネタおろしをして、それが答え合わせのような形にもなりましたか。

幸:そうなんです。受験勉強してるみたいでしたね(笑)

それで、師匠のを見て、自分もやれば良かったと思ったのが、浦上玄信斎が実はワシにも娘がおってって事情を話す場面。自分は啖呵でしたんですけど、師匠は節にしてて、たしかにここは節やなと気づかされました。そういう勉強もありましたね。

あと、台本の作り方は師匠とけっこう違いがあって。自分は後半を大幅に変えてやってたり、途中でも残す部分と省く部分に違いがありました。

―相違が面白いですね。こんな機会もっとあったらいいかと思いましたけど。

幸:いや、でも比べられるのしんどいですよ(笑)

―幸太さんの方が良いって人もいるかもしれないですよ。

幸:いやぁ。師匠がすごいのは、読書とかテレビで特に新しい情報を入れてるわけではないのに、浪曲が体に染みついてるから、浪曲に相応しい文句を当てはめるんですよ。飯安殺しもそれで浪曲が全体が鮮やかになってるんです。

―そういう言葉ひとつひとつの差が影響してくるわけですか。

幸:自分の知らない慣用句や浪曲でよく使われてきたフレーズをパッと合てはめてたり。それが節にもあるんですよね。師匠は流れで自然と鴬童節を選んでるけど、自分は考えてるんで。でも、そこは努力で埋めていきたいと思ってるんですけどね。持って生まれた声質とかは変えられないけど、努力で変わる部分だと思うので。

―ちなみに師匠は台本を事前にしっかり練るタイプですか。

幸:師匠は一カ月前にざっくりとした台本を作って、自分でそれを吹き込んで、それを聞いてネタくって、直前まで試行錯誤したと言ってました。

―けっこう練ってるのですね。

幸:これはパンク侍の台本が出来上がった後に言われたことなんですけど、台本がもう出来上がってるって師匠に話をしたら、やってるうちに気づくことがあるから、公演前まで変えていったらええみたいなことは言われて。

―なるほど。師匠に言われると説得力がありますね。書き上げるだけでも大変なのに、そこから工夫を重ねていくのを精神的にも大変そうです。

今回からゲストは講談の旭堂南海先生です。講談の会津の小鉄を聞いてみて、いかがでしたか。

幸:面白かったです。まさか生い立ちの前からくるとは思わなかった。話の運び方も浪曲と違うなと思いました。浪曲は楽しんでもらえたら、話の細かいところはまぁええやん的なのがありますけど、講談はちゃんと前置きがあって伏線回収して。それを南海先生が速記本とかを参考に台本を作ってるというのが、演者としてはもちろんですが、創作面でもすごいと思いましたね。

―構成面で特に印象に残ったことはありますか。

幸:説明し過ぎるとダレてしまうところで、笑いも入れながら話を運ぶバランス感覚ですかね。

―お客さんがずっと集中して聞いてましたもんね。小鉄という難しそうな話が固くならないですよね。

幸:南海先生ってすごく真面目そうな方かと思いきや、話に笑いもあって、前口上も面白くて。自分はもっと考えていくべきやったと、反省しましたもん。

終演後にジャルジャルの話もしてて、剛柔の使い分けがすごいですね。

―話の幅が広いですよね。ABCラジオの話をしてても「おはよう浪曲」だけじゃなく「宗教の時間」まで話題が及びますから。

幸:記憶力もすごいですよね。

―そうですよね。だいぶ前の話のはずやのに、あたかも今も見てきたように喋る(笑)

幸:本当に。色んな話を聞いてこれからすごく勉強になりそうです。

―次の会津の小鉄は「新門辰五郎」と「名張屋新造」ですよね。これはけっこう体力的にハードなネタかと思います。

幸:次は覚える手間がない分、節が大変です。この二席を一日でやったことないですね。

―新門は節が長いですよね。

幸:新門は長くて、ずっと上げますし。

―名張屋は節が難しいって言ってましたよね。

幸:そうですね。ずっと上げてます。これはだいぶ稽古していかないといけないです。

そろそろ、声を擦る必要があるとは思ってて。色んな公演があるから、タイミングが難しいんですけど。

―声を擦ったら、どのくらいで回復するんですか。

幸:それも分からなくて。完璧となると、一カ月くらいですかね。二週間くらいで一応出るようにはなるんですけど。

―擦るのはすぐにできるんですか。

幸:それも二週間くらい、一カ月くらいか。

―そんなにかかるんですか。

幸:強くなってる分潰れにくくなってると思うんです。

―タイミング難しいですね。

幸:でも、若手のうちにやらないといけないんで。どこがでやりますね。

―公演に向けて、ハードトレーニングと回復時期を逆算していくのがアスリートみたいですね。


2.町田康×浪曲Ⅱを控えて

―町田康さんの小説「男の愛」の出版イベントでの対談で、「パンク侍、斬られて候」を浪曲化の話が出たんですよね。

幸:そうです。そこで十三浪曲寄席の名前も出て。

―数ある作品の中から「パンク侍、斬られて候」を選んだ理由ってあるのですか。

幸:町田さんの作品の中で浪曲化できるものがあるかって質問で、パッと思い浮かんだのが、パンク侍だったからですね。私小説よりはストーリーのあるものの方が浪曲にしやすいというところは考えました。

実際やりだすと、すごい文量なんで大変でしたけど。ストーリー性もあり過ぎて笑

それで気づいたんですけど、浪曲って意外と内容ないんですよね。だから、パンク侍の内容をギュッとするのも難しいし、逆にストーリーを追うだけになるとつまらないし。意外と短い話でじっくり心情描く方がよかったのかなとか。

今回は前後半あったから、書けましたけど、30分では無理でしたね。

―そこは難しいですね。浪曲は元々ストーリー知ってる前提ですっ飛ばしてる部分もありますし。

幸:背景知識の差でもあるんですよね。

―町田さんとの付き合いは2019年の十三浪曲寄席からで、以来幸太さんのインタビューでも町田さんの話がよくありますが、影響はかなり大きいですか。

幸:常に頭の中にいる二人のうちの一人です。

―二人のうちの一人!(笑)

幸:師匠と町田さんと(笑)

大げさかもしれないですけど、町田さんと会った前後で人生が変わってるくらいに思ってて、新幹線やバスで熱海を通るたびに「この辺にいるんかなとか思ったり」。

―好きですやん(笑)

幸:気持ち悪い人なってるんですけど。ツイッターも町田さんに見られることを意識しちゃったり。その辺の話はもういいとして(笑)

―気持ち悪い人の話聞きたかったです(笑)

幸:町田さんに会う前は、芸人としてアホみたいに生きて死んでいこうと思ってたんですけど、町田さんの作品とか生き方を見て、自分も今後受け継がれていくような台本も書きたいと思ったというか。浪曲台本をちゃんと書いていこうと思ったキッカケだと思います。

―それは町田さんのどういうところを見てですか。

幸:まずは話して強烈に憧れたというか。浪曲に対する分析とか。自分が影響受けやすいタイプでもあって、将来本を書きたいなんて思ったりもしたんですけど、読むほどに自分がなれないことに気がついて。自分ができる形として浪曲台本を書くということですね。

―台本というと文章力とかに影響を受けた。

幸:文章力もそうですし、モノの見方ですかね。

―町田さんの小説とかエッセイを読むと、人とは違う視点で人間や社会を見てますもんね。

幸:自分が世の中に腹立つことがあった時に、町田さんの小説を読んで、理由が鮮明になったりとかもしますし。

町田さんが前の十三浪曲寄席の時に、日本の文学も明治以前と以後で変わってて、明治以前からの流れにも沿って書きたいって話をしてたと思うんですけど、それもカッコいいなと思ったというか。それでいて、古臭くない、面白いものを作ってるので。自分が書く浪曲もそうしたいなと思いました。

―町田さんの小説はたしかいに今っぽいという型にハマってない気がします。

幸:自分は元々浪曲聞いたことない人にも分かるものを作ろうと思ってたんですけど、必ずしもそうじゃないなというのに気づいて。女子高生と会社員の人に同じモノを同じ様に楽しんでもらうことってできないんじゃないかなと思って。ホンマに面白いものって誰でも分かるモノではなかったりするのかなとか思ったり。

―それも町田さんの小説からの影響ですか。

幸:そうですね。小説って漫画ほどポップなものではなくて。町田さんの小説もある程度、人それぞれ解釈する部分があるじゃなですか。浪曲もお客さんが想像する部分が大きくあって、全員に同じように伝えるためにはもっと視覚化したり分かりやすくするべきだと思うんですけど、そうじゃないので。浪曲をそこまでポップにしなくてもいいことに気づいたというか。

―なるほど。幸太さんの感性で創るからこそ刺さる層があると思います。それが今回町田さんとのコラボでより深く心に届くのではないかと楽しみにしてます。


3.売れるまでの道のりは続く

幸:27歳で売れたいって言ってたのに、もうすぐ誕生日迎えるんで、ロスタイムに入るっていう悔しさがあります。

―もうすぐですね。

幸:師匠からは30までって言われてるんで、ロスタイムは3年かなと思ってるんです。そこの焦燥感はあります。

―3年のプランはありますか。

幸:とりあえず早く売れなアカンって気持ちがあったんで、実力をつけるよりも、型を先に見つけようとしてたんですけど、それが実際は遠回りになってる気がして、R-1の後くらいからちゃんと実力つけようと変えました。最近はコントをやってて。ちゃんとネタ書いた方がいいと思ってきてて、最近変わってきました。

なので、最短ルートではなくなりましたけど、師匠のおっしゃる30までの間に売れなアカンとは思ってます。

―今すぐという焦りから解放されて、確実性の高い方法を考えられるようになったかもしれないですね。

幸:そうですね。結局オーディションとかR-1でしっかりネタを見せるしかない感じなんですよね。キャラのインパクト残すより、しっかり笑わせることの方が大切なんだと変わってきてます。そう思い始めてから、結果もついてきてますんで。

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