浪曲「パンク侍、斬られて候」創作秘話 2022年6月号より
目次
1.浪曲「パンク侍、斬られて候」創作秘話
2.ラジオ大阪にて浪曲特番放送
1.浪曲「パンク侍、斬られて候」創作秘話
―4月30日のEXTRA公演にて浪曲「パンク侍、斬られて候」が披露されました。公演にはどういった気持ちでのぞまれましたか。
幸:先人が磨いて実績のある過去の台本に対して、今回は自作の新作であり、更に自分が大好きな町田康さんの作品を預からせてもらってるということで、プレッシャーはありました。そんな中で自分の声はここ数年で一番いい状態で、コンディション的には最高でした。声の調子悪かったら、不安や心配があるのですが、それが全くなく、覚えたばっかりのネタでも思い切りできたのはよかったと思います。
―演者の立場として反応が分からないのは不安ですよね。実際に演じてみていかがでしたか。
幸:町田さんのファンが多かったので、背景知識を知ってくれていた分、やりやすかったと思います。
あと、最初は緊張もありますけど、途中から自分もハイになってきて、茶山の場面ではもう自我もなくなってましたし、やってて楽しかったですね。
―浪曲をやり始めると変わってくるものですね。
幸:台本は、自分が演じたいものを書いてるんで。特に前編のクライマックスはイカれた宗教を布教してるヤバいやつを現したたくて、それは気持ちよく意図通りできたかなと思います。お客さんがどう感じたかは分からないですけど、好評なら嬉しいです。
―前編の最後は狂気を感じさせられましたね。町民のセリフとかも。
幸:「最高や!」ってとことか。あそこはホンマに最高やって思ってましたね。
―あの場面はこれまでの幸太さんの浪曲にはない、浪曲の啖呵っぽくない印象も受けました。
幸:自分が最高やと思った時に出る声な気がしますね。演じてないというか。
―違和感があった分、逆に印象に残りました。イントネーションとかも幸太さんの素を感じられるような。
幸:たぶんそうやと思います。自分が腹ふり党に陶酔して、踊り狂った時はああ言うんやと思います。前編はそこが楽しかったですね。
後編は浮きの節で引っ張っていくという感覚が新鮮で、浮きはうちのネタでは「玉川お芳」くらいしかないんですけど、前編と対照的にちょっと理論的にしっかり演じた気はします。
―浮きはどの場面で使ってましたか。
幸:バラシです。バラシの前半は幸枝若節でやって、楊令川原に着いたところから浮きに入ります。
―敢えて浮きを使った理由はありますか。
幸:自分は節の最後まで幸枝若節でいくつもりだったんですけど、師匠に「途中から浮きにいった方が変化出せるぞ」って言われて。だから、師匠の意見なんです。結果それがすごく良くて。
―一門のネタに浮きはあんまりないけど、師匠は選択肢に持ってるんですね。
幸:そうですね。前編のバラシも自分は大阪バラシにするつもりだったんです。太鼓の「ドン、ドン、ドンドン…」が大阪バラシの方が合うと思ってたんで。でも師匠に「これは幸枝節の文句や」って言われて、実際に幸枝節でやってみたら、「ドン、ドン」に節をつけることができたんです。それは自分が思ってたより明るい雰囲気なんですけど、暗い内容を幸枝節の明るさで言うから、逆に暗さが際立つというか、滅びゆくのに明るい悲しさがあって、狂気に感じる結果につながったと思いますね。これは十人斬りにも似ているんですけど。
―たしかに、晴天のもとで踊り狂うような狂気を感じました。
幸:だから、師匠に言われて変えてよかったなと思います。こういうぴったりの節を台本見て、パッと思いつく師匠はすごいと思いますし、自分はまだそこに全然辿りつけてないと思いますね。暗い文句なら、自分はつい暗い節をつけてしまうんですけど、そんな単純なものじゃないんやと気づかされました。
―演じながらお客さんの反応を見る余裕はありましたか。
幸:一番不安だった場面が、後編で(浪曲の啖呵ではなく)敢えていかにもな台詞調で笑いを狙った部分があって、結果そこウケたんで、良かったなあと思いました。無難に運ぶかすごく迷ったんですけど、実験的に自分の考えたのをやってみたので、正直ドキドキしながら、反応を見てました。
―実験的でしたけど、やらないとどうなるか分からないですもんね。
幸:掛十之進含めて、全員を関西弁のキャラにしていたからこそ、あそこの嘘臭い標準語が生きたんかなと、結果見て思います。
―全体的な構成は浪曲らしさを意識されてますよね。
幸:書きながら色んな浪曲の場面を思い出してました。後編の猿の出臼が出てくる場面は「名張屋新造」の四日市の門治が出てくる節だったり。全部の場面で、自分の持ちネタの影響があると思います。そういう意味でやっぱり引き出しが大切やと思いますね。
―それは今までの創作浪曲にはなかった感覚ですか。
幸:単純には感じてたんですけど、この長さの浪曲を飽きさせずに聞かせるために、色んなバリエーションをつけていく必要があって、今回は頭の中から引っ張り出したなと思います。必死で書きましたからね。
―今までの幸太さんの作品とは違うものを感じました。
幸:人生の中でも気合い入れなアカン時間やと思って毎日書いてました(笑)
―ご自身の中で入りやすかった登場人物はいますか。
幸:入りやすいように書いていったんで、掛十之進です。
―そうなんですか。茶山の布教の場面もありましたけど。
幸:実は茶山はほとんど節でしか出てないんですよ。やっぱりメインは掛十之進で、一番演じやすいキャラに設定しました。原作では詐欺で、現代人らしいんですけど、自分の浪曲では「寛永三馬術」の度々平も参考にして、度々平と原作の十之進の間くらいのキャラにしてます。
―後編の最初のやりとりは度々平を彷彿とさせますね。飄々として肝据わってるような感じが。
幸:完全に度々平ではないんですけど、その要素はあります。
―でも,幸太さん度々平を演じるの苦手だと言ってませんでしたっけ。
幸:度々平が酔うところが苦手で、そこ以外はむしろやりやすくて、大井川はやりますし。だから、度々平の演じやすさを借りながら、そこに掛十之進を入れたって感じです。
―登場人物をやりやすいキャラクターに設定できるのは創作ならではですね。
幸:そうですね。内藤帯刀は自分の中では間垣先生に近いですし、大浦主膳は千人坊主の大久保彦左衛門のイメージです。殿様はウチのネタに出てくる殿様像を使ってますし、やっぱり色んなネタを借りてますね。
たまに、「師匠の真似をしてる」とか、「もっと自分らしく」って言われることがあるんですけど、師匠に似てなかったらそれはニセモノやと思うんですよ。師匠からパクって、そっから自分らしさを出していくんやから、10代で入門して10年目で自分らしさが出てたらそれはただの我流なんですよね。
―なるほど。「パンク侍」は師匠の浪曲を受け継ぎながらも、師匠にはないものになってる気がします。
幸:自分は天才ではないんで、幾つかの磨いてきたものを組み合わせることで個性を作っていくべきだと思ってます。今回は幸枝若一門のネタを中心に引っ張ってきて、そこに自分の現代人的な感覚を入れて、今やれる自分の最大は出せたかなと思います。
―幸枝若一門の要素、町田さんの要素を幸太さんなり咀嚼して、唯一無二のものができあがってる気がしますね。
幸:もちろん、これからもっとうまくなっていって、書き直しいくつもりですけど、今思いつく限りはできたかなと思います。
―浪曲「パンク侍、斬られて候」を今後どうしていきたいか考えや希望はありますか。
幸:自分は死ぬまでやりたいですし、やりながらもっと分かりやすく、味わい深くできると思ってます。さらに自分の弟子とか孫弟子ができた時にもっと磨いてくれたらと良いと思います。十人斬りも出来た時は新作だったわけで、十人斬りの様に世代を経てより良いものになってほしいですね。
―これから演じていきながら、もっと磨いていきたいと。
幸:今できる最大ですけど、もっと良くなると思います。色んな人の頭を借りればより一層。
―その点で自分の弟子ができたら、やってほしいというのは大きいですね。
幸:自分と弟子の一門の十八番になってほしいですね。初代幸枝師匠からは「会津の小鉄」があって、先代の幸枝若師匠からは「甚五郎」とか色々ありますし、自分の代から始まったネタの一つになれたらと思います。
町田さんの作品をこんな風にできることがすごいことだと思いますし、残っていってほしいです。
―これからの定番になってほしいですね。そのための第一歩として、早速一心寺で披露していましたが、あれも事前に決めていたのですか。
幸:一週間前くらいから初月姉さんと相談してて、初月姉さんには一心寺のお客さんにはポカンちゃうかって言われてたんですけど。やっぱり新しいお客さんに来てもらうためには、自分から新しいことをしてみようという思いで、初月姉さんを説得してやりました。
―お客さんとしてもそういう挑戦を喜んでくれる人が多かったのかなと思います。
幸:もしかしたら、ポカンかなという不安もありましたけど、今の浪曲ファンも置き去りにしないように書いたつもりでもあるんで。登場人物は少し多いんですけど、初めて聞いても分かるようには作ったつもりなんで、それもあって一心寺でもやろうと思いましたね。
―好みはもちろんありますが、置き去りにする感じはないと思います。
幸:師匠方から受け継いでるネタはもちろん素晴らしいんですけど、それに頼り過ぎてもアカンと思いますし。特にこれから新しいお客さんにも来てもらうことを考えたら、若い人が分からない話だけしてたらアカンと思いますね。
―実際に一心寺での反応はどうでしたか。月曜日の一心寺なので、たぶん十三浪曲寄席のお客さんとはまた違う客層だったと思うのですが。
幸:ポカンとして人もいたかもしれないですけど、「面白かったよ」と声かけてくれるお客さんもいました。全員に刺さらなくても、半々でいいと思うので。
―手応えは得られたと。
幸:くすぶりにも笑ってくれてるし、伝わってるのが分かったので、やって良かったと思います。
―ちなみに、師匠の前でやったことはありますか。
幸:稽古で見てもらいました。
―それはどのくらいのテンションでやるのですか。
幸:普通に舞台と同じテンションで一席やります。
―師匠はどんな反応でしたか。
幸:師匠はポカンでした。
―(笑)
幸:(笑)
―師匠には伝わらなくても、幸太さんの意思を尊重してくれる師匠で、それは逆によかったです。
幸:伝わってなくても、的確な節を教えてくれはりますし。
2.ラジオ大阪で浪曲特番放送
―次は先日ラジオ大阪で放送された「浪曲特番」についてお聞きします。
幸:豪華なゲストにも出ていただいて、色んな角度からの話もあり、バランスのいい番組になってたと思います。
―特に印象に残った部分はありますか。
幸:町田さんが浪曲「パンク侍、斬られて候」の感想を言ってた部分はもちろんですが、エンディングで町田さんが「浪曲がまた流行る時代がくることを確信しています」と言ってたのは、励みになりましたね。
そこで、神田伯山先生が「数が大事」と言ってたのもむちゃくちゃ共感しました。
―ゲストの皆さんそれぞれ浪曲持つチカラを信じているという印象を持ちました。幸太さんも再び浪曲の時代が来ると話していましたが、そのためには何が必要だと考えますか。
幸:十三浪曲寄席がもっと大きくなることですかね。
―いやいや(笑)
幸:でも、本当に関西発の芸人が強いように、関西発の会が有名になることは大切だと思いますし、それを十三浪曲寄席がやってほしいです。
―そう言ってもらえると有難いですし、今度の東京公演では関西圏以外の人にもアピールしたいですね。でも、十三浪曲寄席は置いといて。浪曲の時代が来るために何が必要だと考えますか。
幸:後輩ですかね。脅かすような後輩が出てきてほしいですね。神田伯山先生が言ってたようにそのために、まず数が必要なんですよね。
―沢山の人の中から特別な存在が生まれますもんね。
幸:だから、今の後輩を否定するつもりは全然なくて、仮に同期に当時の京山福太郎(師匠の前名)がいたらめちゃくちゃ焦るなと思うんです。
―そこをもう一つ深掘りすると、後輩が増えるために浪曲界が今するべきことは何だと考えてますか。
幸:それは誰か一人の力ではなく、色んな人が色んな活躍をしていくことが大切だと思います。隼人兄さんには隼人兄さんのやり方があるし、自分には自分のやり方があって、色んなタイプの浪曲師・曲師が出ることで、色んなタイプの後輩が出てくるかなと思います。
―なるほど。それが少しずつ実現している気がしますし、それぞれのパワーも大きくなってきている気がします。これからの活躍も楽しみにしています。
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