京山幸太×石山悦子「任侠ずラブ」を語る 2019年6月号より

 このインタビューには新作浪曲「任侠ずラブ」に関して多少のネタバレがあります!!ネタバレ厳禁の方は実際にご覧になってからお読みください。

 今回の記事は先日喜楽館の昼席公演にて、京山幸太さんがネタ卸した新作「任侠ずラブ」に関してです。インタビューでは幸太さんだけでなく作者の石山悦子さんも交えて制作の過程や裏側を語っていただいております。他では知ることのできない貴重な情報が満載。これを読んだら「任侠ずラブ」を見たくなる、そして、より楽しめます。

目次

1.創作のきっかけ

2.台本完成後の工夫

3.公演を終えて

石山悦子…「任侠ずラブ」の作者。2017年には落語「税夢署」で上方落語台本大賞を受賞。上方演芸界を中心に台本作家として活躍中。浪曲では落語「紙入れ」を現代に置き換えた「つみとばつ」を真山隼人向けに創作。

「任侠ずラブ」…正式タイトルは「清水次郎長伝より 血煙荒神山アナザーストーリー『任侠ずラブ』」。京山幸太も持ちネタにしている「吉良の仁吉 お菊の別れ」からのスピンオフ作品。「吉良の仁吉 お菊の別れ」の大まかなストーリーは、縄張りだった荒神山を桑名のヤクザ・穴太徳に奪われた兄弟分・長吉のために仁吉は女房・お菊を離縁して長吉に助太刀する。そこに清水次郎長一家も加勢するという義理と人情の話。「任侠ずラブ」はその裏で実は繰り広げられていた男と男の純愛ストーリー。笑いあり、トキメキありの純愛物語です。

1.創作のきっかけ

―まず「任侠ずラブ」が完成するまでの過程からお聞きしたいと思います。今回の浪曲の創作はどういったきっかけや経緯で始まったのでしょうか。

幸:去年、ある打ち上げで石山さんとご一緒した時に、石山さんから話をいただいのが最初です。その時にはまだ「任侠ずラブ」の案はなかったですよね。

石:案はまだなかったですね。案を持って行ったのは2月の十三浪曲寄席の時ですよ。任侠の恋物を提案したら、二つ返事で「やりたいです」って言うてくれたんです。そこにいた初月師匠もやりたいって言うて、それからみんなで「おっさんずラブ」の話題でキャッキャッ言うて盛り上がりました。

幸:そうでした、そうでした。

石:作家にとって、そういうファーストコンタクトってすごい大事で、演者と作者であんな風に盛り上がるって良いんですよ。最初に前向きに受け入れていただいたのは大きいですね。

幸:それに関してはBL浪曲的なのをやりたい気持ちが元々あって、そこにちょうど話を持ってきてくれたんで、是非お任せしたいなって思ったんですよね。

―なるほど。話が前後しますが、一番最初に石山さんが幸太さんに浪曲を書きたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

石:今、社会的にもLGBTQって話題になってるじゃないですか。そういう人たちが感じている生きづらさに対して、いろいろ感じるところがあって。私は恋愛については誰もがボーダレスでいい、一人一人違うくてええやんって思っているので、そういうものを発信したい気持ちが前々からあったんですよ。

―まずはその気持ちがあったんですね。

石:それがあって、どうしようかなとモヤモヤしてた時にドラマ「おっさんずラブ」を見て、胸を打つシーンがどんどん出てきて。特に、脇役の女子社員が「好きになったらダメな人なんていないんじゃないの」っていう台詞には震えました。自分の心がごっつ反応してて、自分もそういうこと思ってたんやってわかったんですよ。ほんじゃあ、自分も書きたいとなって、じゃあ誰にやってもらおうかってなったら、ちょうど幸太さんがそういうLGBTQに関する発信もしてて、これは幸太さんしかおらんねってなり、話を持って行ったのが始まりですね。

―なるほど!そういう流れで幸太さんに話を持って行ってましたか。ジェンダーに対する想いが最初にあったのですね。

石:そうなんです。恋はヤクザであろうが10代の乙女であろうが50、60代であろうが、一緒なんじゃないかっていうメッセージを込めたつもりなんです。

―そういうメッセージが伝わる場面はあった気がしました。

幸:話に笑いはあるんですけど、そういう感情を茶化してる訳じゃないし、そういうところが自分も良いなぁって思いました。

―幸太さんは最初に石山さんから新作の話を貰った時から、新作をすることに前向きにだったんですね。

幸:新作も欲しかったので、タイミングも良かったなと思います。古典は一生大事にしていくんですけど、落語家さんたちの会に出た時とかに今回のようなネタは使いやすいですし。ある意味で浪曲らしくないネタが欲しかったんです。

石:寄席に来るような若い人でもいきなり浪曲で忠臣蔵やると付いていけないと思うんですよ。そこで浪曲に入りやすい何かがあったら、そこが入口になって、忠臣蔵とか深い深い楽しみに繋がるじゃないですか。浪曲のきっちりとした見せ方も型やと思うんですけど、置いてきぼりになってどんな話か分からなかったら勿体ないじゃないですか。

幸:そういうのはちょくちょくありますよね。忠臣蔵とか特にそうで、討入りに行く理由を知らない人もいてはるでしょうし。そういう意味でも「任侠ずラブ」は年配の人ならお馴染みの仁吉って思ってもらえるし、若い人には「おっさんずラブ」の知識から入れるし、どの世代にもわかりやすいように作ってもらえたなって思います。

―ジェンダー的なメッセージとともに浪曲を聴くきっかけになることも意識されたんですね。

石:聴くきっかけになりたいというのは真山隼人さんの「つみとばつ」も同じです。あの時はちょうど不倫が次々とマスコミで取り上げられてて、それなら不倫で一本書いてみたいなと。それで落語の「紙入れ」を社宅に置き換えて創作したんです。そんな感じで、台本書くときは現代の人が今何に反応してるかっていうことを意識して、それを絶対ネタには入れたいですね。

―石山さんはそういう古典と現代のテーマの組み合わせ方が絶妙ですよね。石山さんの創作に関する話なんですが、創作する上で落語との違いはありますか。

石:節を大事にして、歌詞というか七五調で、その人の声を生かしたいと思ってます。作詞家になった気持ちで、山口洋子的な。「よこはま たそがれ ホテルの小部屋」じゃないですけど、伝えたいことをみんなの耳に残るワードに乗せたいっていう。

―言葉一つ一つを選んでいくような作業は落語とは大きく違いそうですね。特にこだわった節はあるのでしょうか。

石:次郎長の「摘んで楽しは…」っていう節ですね。あの節は、喜楽館に向けてどこかをカットしようって幸太さんと話した時に、幸太さんも「ここは置いとかなアカンな」ってすぐわかってくれたんですよ。あそこが私にとって肝やったんで、あぁわかってくれてるなってなりました。作品の全部がここにあるくらい節に込めた部分やったんです。

※「任侠ずラブ」は全編で約20分あるが、喜楽館で口演できる時間は13分だった。

2.台本完成後の工夫

―逆に幸太さんは石山さんの節を見て思ったことはありますか。

幸:節の七五調って基本なんですけど、浪曲って敢えて七五調から外すことがあるんです。そこで逆に料理の仕方で良い節ができたりする。今回、意図してか意図せずかはわからないですが、「血煙荒神山アナザーストーリー」ってむちゃくちゃ節付けにくいんです。でも、逆に付けれた時に良いものができて。そういうのを自分で探すのも面白かったです。台本に節を付けたのは初めての経験だったので。

―(台本を見ながら)台本の段階では節と啖呵の部分は分かれているけど、どの節を使うなどは特に指定されてないのですね。これ以外にも台本見た時にびっくりするようなことはなかったですか。

幸:びっくりするようなこと⁉笑

―セリフでも古典とは違う部分があったかと思いまして。

幸:それはあります!驚いたというか、古典の間と新作の間ではリズムが違うんですよ。。

―間というと、具体的にはどういう部分ですか?

幸:盛り上げ方と言いますか、言葉の節回しというかメリハリの付け方でしょうか。「任侠ずラブ」は「おっさんずラブ」的なところもあるから、浪曲らしくし過ぎずにドラマっぽく語ってて、古典やったら違う言い方するやろなって思いながらも、そこは使い分けてました。

石:なるほど。

幸:古典はセリフになったらだめなんですよ。啖呵なんです。節と一緒でメリハリがあって。だから、演劇みたいなったらダメなんですけど。でも、逆に今回はそれをダメじゃなく、それっぽくしようと思ってやったから普段とリズム、間が違うんです。それも面白かったです。

―古典の場合は師匠というある種の型となるべきものがありましたが、今回は台本から自分でイメージして言い方などを考えるのは初めての経験だったかと思います。

幸:そうですね。だから、「えー!」のツッコミ方とかは考えました。いかにも驚いた風に「えっー!!」って言うのはやめようと思って、ちょっと抜けた感じで言おうと思って。それを記憶から辿って誰の「えー!」が良いかなって芸人さんのとかを参考にしました。

※「任侠ずラブ」に驚く場面がある。

石:あれは実はジャルジャルの「えー!」かなと思ってたんですけど。「すごい展開」というコントがあって、それのイメージやったんです。

幸:そうなんですね、あそこはホンマに驚いてる感じよりは笑かしにいこうと思ったから、上手いやり方せんとこうと思って、その結果あれになったんです。色々試した結果です(笑)。

石:あの音程が絶妙と思いますわ。

―独特ですよね。今までの幸太さんで見たことない顔と声でとても印象に残りました。石山さんも最初に聴いた時はびっくりしたのではないですか。

石:まさかあの音程で来るとはですよ(笑)。うわ、すごっと思って。臭くなり過ぎず、オシャレやなと思いました。

―オシャレですか!

幸:でも、いつも河原で浪曲の練習するんですけど、一人であの「えー!」を言ってるのはなかなか恥ずかしかったですよ(笑)。

―節に関して台本を見て工夫されたことはありますか。

幸:古典って序破急なんで、徐々に盛り上げて最後にバンッといって、うちの一門なら「ちょうど時間となりました」で落とす。でも、今回はそれが良い意味で違うんですよね。最初に次郎長が出てくる節がバラシと言われる普通なら最後に使われる節やから、逆なんですよ。最初に早いテンポを持っていくとかテクニック的なところでも違いましたね。

―そこも幸太さんが台本を見てからの工夫なんですね。

幸:そうですね。次郎長出てくるのがまったりした節やとやっぱりおかしいなと思って。古典の本当の順序ではないけど、敢えて最後にやる節を前に出そうと。

石:そうか。

―石山さんがそこを意識しなかったからこそ、新しい形を作れるのですね。

石:知らんというのは恐ろしいです。

幸:ルールじゃないんで、構成の仕方なんで全然良いんです。

3.公演を終えて

―公演が終わって、お客さんの反応はどうでしたか。

幸:喜楽館の公演は浪曲を知らない人がやっぱり多かったと思うですけど、それでも笑い所でちゃんと笑ってくれて、反応がしっかりあったんで良かったですね。誰もやったことないネタやから、どんな反応になるか不安はあったんで。

―今日のお客さんにもよくウケてましたもんね。石山さんは実際に聴いてみてどういうことを思われましたか。

石:(幸太さんが)全部汲み取ってくれてる感じです。あと、寄席の出番って短いんですよね。本編を13分に収めないとイケなくて、私も初日の舞台で時間測ってたんですよ。そしたら12分57秒で収めはって、天才かよっ!って思ったんです(笑)。時計とか見てないんですよね。

幸:一応あるんですけど、見たら素に戻っちゃうから見ないです。

石:だから凄い方々って思ったのと、これから何回もかけていくうちに、膨らましていかれるだろうなっていう期待感を感じましたね。

幸:まだ口馴れしてないのもありますし。最初はそのままやるので必死やったのが、今回4回掛て、間違えへんかなっていう心配はなくなってきました。間の感じもわかってきたし、やりやすくなってきてます。尺が長くなったらもっとじっくり節やりたいなって思う部分もあるし、また変わってくると思います。

―この後、石山さんは続編を書く予定はあるのでしょうか。

石:どうでしょうか、あるかも(笑)。これを知ってもらって、次どうなんねやろキュンキュンキュンってしてもらえたら良いですよね。

―聞いた人が増えていくとSNSなどでも話題になって、そうなりそうですね。

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